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2018 春号 (4-6月)

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[タイムワープ]夢飛翔

第42回 生物多様性/躍進と絶滅を繰り返して

生物多様性保全 ダーウィン・イニシアティヴ25年記念切手 チャールズ・ダーウィン『種の起原』の結び「生命はそのあまたの力とともに、最初わずかのものあるいはただ一個のものに、吹きこまれたとするこの見かた、そして、この惑星が確固たる重力法則に従って回転するあいだに、かくも単純な発端からきわめて美しくきわめて驚嘆すべき無限の形態が生じ、いまも生じつつあるというこの見かたのなかには、壮大なものがある」(八杉竜一訳)
生物多様性保全 ダーウィン・イニシアティヴ25年記念切手
チャールズ・ダーウィン『種の起原』の結び「生命はそのあまたの力とともに、最初わずかのものあるいはただ一個のものに、吹きこまれたとするこの見かた、そして、この惑星が確固たる重力法則に従って回転するあいだに、かくも単純な発端からきわめて美しくきわめて驚嘆すべき無限の形態が生じ、いまも生じつつあるというこの見かたのなかには、壮大なものがある」
(八杉竜一訳)

この地球に生命が誕生して40億年ほど経つ。想像を絶する時間が原始細胞と私たち人類の間に流れている。その間に何億種もの生物が生み出され、滅んでいった。時間を苦にしないタイムマシンの翼に乗って悠久の時空を駆けてみる。スタートから35億年ほどは微生物や藻類ばかりの退屈な旅だ。写真映えのする多様な動物が登場するのは5億年前あたりから。海の中の風景が急ににぎやかになってくる。


5億4000万年前
多様な動物デザインの大実験

生物進化史を飾る事件現場を求めて、カナダ西部ロッキー山脈の一角、バージェス山の山腹に降り立つ。ここから5億年ほど前の古生代カンブリア紀にタイムワープすると、マシンは海中へ。どうやら赤道付近の浅瀬に来ているようだ。

びっくりする光景が視野に飛び込んでくる。10対余りの脚で海底をごそごそ動いているのは体長8cmくらいの「オパビニア」。先頭には5つの眼があり、電気掃除機のようなノズルの先に捕獲用の爪を持っている。胴体に生やした多数のヒレでゆうゆうと動き回っているのは、カンブリア紀最大、体長60cmもある「アノマロカリス」だ。1対の大きな眼のついた頭に、エビのような形の付属肢を2本備えている。なんとも奇妙な形態の動物たちが次々と見つかる。

クラゲのような浮遊動物しかいなかった世界に、骨格を持つ多彩な動物群が突如出現した。多くはやがて姿を消す。その化石が、移動する大陸に運ばれて5億年後のバージェス山のけつがん中に眠っていた。

バージェス化石群は1909年に発見されたが、正体が不明のまま標本庫で眠る。1970年代になって、化石の真相が再発見される。5億4300万年前から500万年間に、多様な無脊椎動物が爆発的に進化したことが明るみに出された。オパビニアやアノマロカリスは今のどの動物門にも属さない新奇な動物らしい。この「カンブリア大爆発」を名著『ワンダフル・ライフ』で一般読者に伝えた米国の進化生物学者スティーヴン・グールド博士によれば「爆発的な多様性は、生命デザインの大実験だった。多くは運悪く絶滅し、たまたま生き残った少数種が現生につながった」。

あのカンブリアの海の一角で体長5cmほどの「ピカイア」が弱々しそうに泳いでいた。このせきさく動物が生きながらえて、やがて脊椎動物の魚へと進化したことがゆくゆくは哺乳類の人類を誕生させることになる。

オパビニアの化石(カナダ)
オパビニアの化石(カナダ)
アノマロカリス復元模型
アノマロカリス復元模型

2億5000万年前
地球生命全滅の危機迫る

カンブリア爆発に始まる生物多様性は、現代に至ってピークに達しているのだが、その経過は決して一本道ではない。これまでに生み出された生物種のうち99%以上は絶滅している。生命史は絶滅の歴史でもあった。

恐竜やアンモナイトなどが滅んだ中生代白亜紀末期の現場には連載第40回(2017年秋号)でタイムワープした。この時は3分の2ほどの生物種が絶滅した。それをはるかに上回り、生命が全滅しそうになった大量絶滅事件がある。2億5000万年ほど前の古生代末期ペルム紀に飛んでいく。

地球全体を眺めると、大陸の配置が今と全く異なる。ユーラシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア、南極が集まった超大陸になっている。今のシベリアあたりで火山の噴火が続き、大気は汚染され、酸性雨が降り注ぐ。

時間を短縮して観察すると、海中ではカンブリア紀から栄えていた三葉虫などがばたばた死に絶えていく。すでに陸上に進出している動物や植物にとっても厳しい環境だ。地質学的には短い数百万年の間に、海洋の全種の90%が絶滅する。陸上でも植物の大半が失われ、両生類とちゅう類の70%ほどが絶滅した。異変がもう少し続いていたら、地球生命は途絶えていたかもしれない。

この大絶滅の原因は謎に包まれたまま。超大陸の分裂、大噴火に伴う気候変動のほか、海洋の酸性化や酸欠異変、白亜紀末と同じく巨大いんせき衝突など、諸説が飛び交う。論争にはミステリーを読む面白さがある。アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』のように多数の犯人が関わっているのかな。

2億6000万年前の大陸配置図。中央は南極大陸(英領南極地方)
2億6000万年前の大陸配置図。中央は南極大陸(英領南極地方)
三葉虫の復元図(カナダ)
三葉虫の復元図(カナダ)

1992.5.22
第6の大絶滅を避けるために

生物種の大半が滅んだ絶滅事件は、ペルム紀と白亜紀の末期のほか、古生代に2回、中生代に1回ある。生命史上の「5大絶滅」とよばれる。滅ぶものがあれば、栄えるものもある。ペルム紀に絶滅を免れた爬虫類が恐竜に進化して1億年の繁栄を誇った。恐竜が絶滅した後の新生代に哺乳類の全盛期時代がやってきた。その最新参者、たかだか30万年前に登場した現生人類(ホモ・サピエンス)が地球上にはびこり、「第6の大絶滅」に手を染めている。

人類は自然を征服する技術を高めながら、数万年前から野生生物を滅ぼしてきたが、産業革命いらい絶滅に拍車がかかり、この調子でいくと、21世紀末には生物種の半分が絶えるかもしれないと予想される。

こうした予想ができる科学を身につけていた人類は、絶滅の回避にも動き出した。1992年5月22日、ナイロビ(ケニア)の国連環境計画本部に集まった南北80カ国の代表が生物多様性条約を採択した。世界中が協力して生物の多様性を保全していこうという取り決めで、この日は「国際生物多様性の日」となっている。 

人口が増え、国境を越える人間活動が広がるなかで、絶滅速度に歯止めをかけるのは容易ではない。地球の管理者たらんとする人類の思いあがりをたしなめて、グールド博士は「われわれが地球にやさしく接すれば、地球もわれわれのことをしばらくは許容してくれるだろう。われわれが地球を傷つければ、地球は血を流し、われわれをほうりだして傷口に包帯を巻き、独自の時間尺度で自分の仕事を続けるだろう」と語っていた。自然界が損なわれて困るのは重圧をかけている人類自身なのだ。

生物多様性の日(5月22日)記念切手(ブルガリア)
生物多様性の日(5月22日)記念切手(ブルガリア)
野生動物保護のための国連切手 マナティー(左)ユキヒョウ(右)
野生動物保護のための国連切手 マナティー(左)ユキヒョウ(右)

生物多様性の興亡史

生物多様性の興亡史

<参考図書>

スティーヴン・グールド『ワンダフル・ライフ』渡辺政隆訳(ハヤカワ文庫)/エドワード・ウィルソン『生命の多様性』大貫昌子・牧野俊一訳(岩波現代文庫)

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