2019年度 SDGs特集

「食料不足」と「食品ロス」
〜今、世界と日本の食料問題を考える〜

掲載日:2019年10月10日
国連食糧農業機関(FAO)のンブリ・チャールズ・ボリコさん(左)と株式会社日本フードエコロジーセンターの髙橋巧一さん(右)

スーパーマーケットやコンビニにはたくさんの食品が並び、私たちのまわりには食べ物があふれている。そして、賞味期限が切れた食品は大量に廃棄される。一方、世界に目を向けると飢餓で苦しむ人も多い。果たして地球規模で食料は足りているのだろうか。世界の食料問題について国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所所長のンブリ・チャールズ・ボリコさんに、また、食品ロスと家畜飼料の活用法について株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役の髙橋巧一さんに伺った。


■世界の食料問題について

人口に見合うだけの食料は生産されているが……

日本で暮らしていると、飢餓に苦しむ人がいることを実感する機会は少ないかもしれない。しかし、世界的に見ると、2015年以降、慢性的に栄養が不足している人の数は増加傾向にあり、2018年には推定で8億2000万人以上に達したという。

その状況について国連食糧農業機関(以下FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)駐日連絡事務所所長のンブリ・チャールズ・ボリコさんがこう説明してくれた。

国連食糧農業機関(FAO)
駐日連絡事務所
所長
ンブリ・チャールズ・ボリコさん

「全世界で8億以上の人が栄養不足だというと、食料が不足していると受け取られるかもしれません。ところが、実は世界中の人たちを飢えさせないだけの食料は生産できているのです。食料が足りているのに、どうして飢餓に苦しむ人が存在するのでしょうか。主な原因は3つあります。ひとつは気候変動、もうひとつは紛争、そして3つ目は経済停滞です」

近年、日本でも豪雨や大型の台風による災害が発生しているように、世界でも気候変動による自然災害が多発し、食料生産に悪影響を与えている。急な洪水や干ばつで農作物が収穫できなくなることもある。無事に生産された農作物も、土砂災害で流されたり、予想以上に気温が上昇した結果、倉庫で保存しているうちに品質が劣化して食べられなくなることもある。

また、一度紛争が起これば、食料は生産できなくなってしまう。たとえ紛争地以外の場所で食料を生産できたとしても、紛争が食料の輸送を妨げ、飢えに苦しむ人たちに食料を届けられない。その結果、食料確保に不安を感じるようになり、トラブルが多発。さらなる紛争の引き金になることもあるという。

そして、いくら十分に食料が生産されていても、経済危機で食物が輸入できなければ、人々は飢餓に苦しむことになる。

2050年、肉類の需要は1.8倍に増加する

FAOはこうした事態を改善するため、食料を直接配給するのではなく、教育や知識により、すべての人が持続可能な方法で健康な生活ができることを目指しているという。例えば、モンゴルでは、「ゾド」と呼ばれる気象災害の早期警報を出すことで、寒さと飢えによる家畜の大量死を未然に防ぐための試みを行った。また、ミャンマーでは災害リスク軽減にドローンを応用する研修を開催したりしている。

さらに、ボリコさんはこう指摘する。

「日本をはじめ先進国の人口は減少傾向にありますが、まだまだ増加の一途をたどっている国もあります。現在、77億人とされる世界の人口は、2050年には97億人まで増えると予測されています。ですから、当然、食料の生産性を高めていかなければなりません。今よりさらに50%以上、もしかすると60%程度生産性を高める必要がありそうです。しかも持続可能な方法で実現しなければならないのです」

FAOが行った予測では、2005年~2007年と比較して、2050年には穀物の需要量は1.5倍に、肉類の需要量は1.8倍に増加するという。人口の増加に加えて、例えば中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカといった国が経済的に豊かになり、肉類を食べる人が増えていることも影響して、肉類の需要は大きく跳ね上がると予測されている。

畜産は植物を与えて牛や豚を育てるため、大量の飼料が必要で穀物に比べて生産効率が悪い。しかし、人間の体内で合成できない必須アミノ酸は食事で摂取しなければならないことを考えると、タンパク質の増産は避けられない課題だ。実際、FAOは、タンパク質を豊富に含む豆類の生産を推奨したり、昆虫食の普及に取り組んだりしているが、より効率的にタンパク質を生産する新技術の開発も期待されるところだ。

もちろん生産された食料の廃棄量も減らしていかなければならない。廃棄した食料を焼却する際に発生する温室効果ガスは気候変動に影響を与えているという。ボリコさんはこう続ける。

「食料の廃棄は大きな問題です。しかし、実際は好き好んで食料を廃棄しているわけではない事情があります。開発途上国では冷蔵施設がないために、消費者に届けるまでに食料を腐らせてしまうことが少なくありません。また道路の整備が不十分なために、届ける前に食料を劣化させてしまうこともあります」

FAOは自ら道路を建設することはできないが、他の国際機関と連携しながら、食料の物流体制の拡充に努める場合もあるという。

「これから未来に向けて、私たちは持続可能な方法で世界の食料問題に取り組む必要があります。今、私たちにも日常生活の中で、できることはたくさんありますよ」とボリコさんは結んだ。


■日本の食料問題について

捨てられた食品を燃やすために1兆円ものコストがかかる

株式会社日本フードエコロジーセンター
代表取締役
獣医師
髙橋巧一さん

その一方、私たちが暮らす日本でも、大量の食料が廃棄されている。農林水産省の推計によると、まだ食べられるにもかかわらず捨てられた食品ロスの量は年間643万トン(平成28年度)にも達する。物流途中で腐らせてしまうようなことはないはずなのに、なぜ大量の食品ロスが生じるのだろうか。神奈川県相模原市で食品リサイクルに取り組む株式会社日本フードエコロジーセンターの代表取締役であり、獣医師の髙橋さんは、「さまざまな原因が関わっている」と前置きしつつ、食品ロスが発生する原因についてこう説明してくれた。

個々の店舗が注文する数は多くはなくても、全国の店舗の注文を集計すると数千、数万という大量のお弁当、おにぎりを製造することになる。そして、残念ながら余ったご飯の多くは焼却場で燃やされることになるのだ。髙橋さんがこう続ける。

「食品リサイクル法が定める“適正処理”には焼却処分も含まれており、大量の食品廃棄物を焼却しても罰せられることはありません。そのため大量の食品が灰になっているのですが、廃棄された食品を焼却するのに年間1兆円近い費用がかかっていることは、ほとんど知られていないのではないでしょうか」

資源ゴミの有効活用が進み、古紙のほとんどがリサイクルされるようになった現在、自治体の焼却場で処理されるゴミの4割から5割は食品廃棄物だという。廃棄物の処理に関わる経費は全国で2兆円程度であることから、食品廃棄物の焼却処分に8000億円から1兆円ものコストがかかっている計算になるわけだ。


リサイクル技術を誰でも使えるように開示

日本フードエコロジーセンターでは、少しでも食品の無駄をなくし、食品が廃棄される前に、循環資源として食品廃棄物をリサイクルして豚の飼料を作っている。この取り組みは、継続性のある循環型社会を構築したと高く評価され、2018年12月に、「第2回ジャパンSDGsアワード本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞している。

髙橋さんは飼料の作り方についてこう説明する。

「食品廃棄物の飼料化は以前から取り組まれてきましたが、保存性を高めるために加熱して乾燥させる方法が一般的でした。ただ、これでは大量のエネルギーを消費することになり、コストは高く、かつ環境に優しい方法とは言えません。そこで私たちは、食品に含まれる水分はそのままにしつつ、保存性を高められる方法で製造しています」

食品工場などから搬入された食品廃棄物は、計量を経て、飼料にできない魚の骨や卵の殻、ビニールや割り箸などの異物が取り除かれる。次に破砕してどろどろのジュース状にした後、80~90℃の高温に加熱して、大腸菌、サルモネラ菌などの有害な細菌を死滅させる。さらに、そこに乳酸菌を加えて発酵させている。その理由について、髙橋さんが説明してくれた。

「伝統的に日本では発酵という手法で食品を酸性にして保存性を高めてきました。酸性が強くなると雑菌の繁殖を抑えられます。破砕した食品に乳酸菌を添加し、一晩発酵させて酸性にすることで、水分を多量に含んでいても腐りにくくなるのです。このようにして『エコフィード』という液体発酵飼料ができあがります。余った食品が搬入された翌日には飼料となって、タンクローリーで契約している養豚場に運ばれていきます」

酸性の「エコフィード」は常温で保存してもほとんど雑菌が繁殖することはないという。日本フードエコロジーセンターでは定期的な品質検査はもちろん、10日間分の「エコフィード」を常温で保管し、いつでも検証できるよう品質管理を徹底している。また、養豚場の要望により、飼料にカルシウムなどの栄養素を加え、ブランド豚の育成にも貢献。「エコフィード」を製造するシステムを導入すること以上に、365日毎日品質を管理しながら運用することに苦労があるという。

こうした取り組みが全国に広がっていけば、焼却される食品廃棄物が減っていくに違いない。髙橋さんは食品廃棄物から液体発酵飼料を製造するリサイクル技術を誰でも使えるよう、求められればノウハウも開示している。既にこのような液体発酵飼料の製造を自社で導入している食品会社もあるという。今後、食品廃棄物の飼料化が進むことが期待できるが、飼料化だけでは食品廃棄物の処理は十分ではないと髙橋さんは言う。

「飼料の成分を一定に保つため、何でも受け入れられるわけではありません。元々、生肉や廃油はお断りしていますし、急に大量のご飯が発生しても、一定量しか受け入れられません。かといって、焼却は避けたいので、堆肥やバイオ燃料にする食品リサイクル工場を紹介しています。このように飼料化だけでなく、多面的なリサイクルに取り組んでいく必要があります。もちろん、何よりも食品を廃棄しないことが大切です」

便利さを追求した結果、私たちが暮らす日本では、いつでも食品を入手できるようになった。しかし、その代償として大量の食品ロスが発生している。私たちの食料問題は日本だけの問題ではない。2019年10月1日に、食品ロス削減推進法が施行された。今、私たちは食品ロスの削減に向け、第1歩を踏み出す時期にきている。

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