2019年度 SDGs特集

科学への探究心と自主性を育む試み
~兵庫県立尼崎小田高等学校が主催する「高校生サミット」~

掲載日:2019年9月12日
須磨海岸の砂にはどれくらいのマイクロプラスチックが潜んでいるのか。瀬戸内海の「高校生サミット」のメンバーが挑んだ。

須磨海岸の砂の中には、マイクロプラスチックと呼ばれる5ミリメートル以下のプラスチックごみがどれくらい潜んでいるのか。兵庫県立尼崎小田高等学校の生徒を中心に、瀬戸内海の高校生が参加する「環境・防災地域実践活動高校生サミット」(以下、高校生サミット)のメンバーがこのテーマに挑んだ。3回のワークショップを通じて自分たちが決めた共同研究の取り組みを深め、11月16日の高校生サミットでその成果を発表する。今回はその1回目のワークショップを取材した。生徒の自主性を尊重する高校生サミットの活動に、3年後に新設される「理数探究※」科目のヒントが見つかるかもしれない。


※2022年度から年次進行で実施される新しい高等学校学習指導要領においては、新たに共通教科「理数」が位置付けられ、「理数探究」及び「理数探究基礎」が科目として設置される。知的好奇心を持って多角的、複合的な視点で事象をとらえ、自ら課題を設定して主体的に探究し、課題を解決するために必要な資質・能力を育成することが求められている。



生徒が企画・運営する高校生サミット

2019年7月21日。夏休みに入り初めての日曜日。瀬戸内海の須磨海岸に隣接する神戸市立須磨海浜水族園には総勢38名の高校生が集まった。海水浴場としてにぎわう砂浜で、「マイクロプラスチック調査」に関するワークショップが始まる。これは、2005年度から15年間にわたり、「スーパーサイエンスハイスクール事業」※(以下、SSH)の指定を受けている兵庫県立尼崎小田高等学校(以下、尼崎小田高校)が主催している高校生サミットの一環だ。

SSH指定校の尼崎小田高校の生徒たちは、近隣7校の生徒とともに「生徒実行委員会」を構成し、高校生サミットを企画・運営している。高校生サミットには、生徒実行委員会の7校のみならず、瀬戸内海周辺の高校など計35校が参加する。さらに、京都大学や兵庫県立大学、国土交通省や海上保安庁、須磨海浜水族園などもこの高校生の研究活動を精力的にバックアップしている。尼崎小田高校はどのようにして、このような連携をスタートしたのだろうか。

※スーパーサイエンスハイスクール事業とは、理数系教育に重点を置いた教育課程等に関する研究開発を行う文部科学省の事業。将来国際的に活躍し得る科学技術人材等の育成を図ることを目指しており、2019年度は全国で212校が指定されている。


情報交換から始まり、高校生フォーラム、そして高校生サミットへ

尼崎小田高校校長の中谷安宏さんは、他校との連携の経緯を次のように振り返る。

「サイエンスリサーチ科の課題研究の中で、2008年度にある生徒が尼崎市の河川の水質調査をしたのが始まりでした。その後、2009年度から尼崎港の環境調査や水質改善の取り組みを始めました。やがて、近隣の高校でも同じような取り組みを行っていることを知り、互いにデータの共有ができればと考えました。情報交換を目的として2011年度に始めたのが『高校生フォーラム』です」

2011年度からは研究活動の範囲を大阪湾へ、さらに2012年度からは瀬戸内海へと徐々に拡大。そして、現在は「高校生サミット」へと名称を変え、環境と表裏一体の防災へも範囲を拡大し研究活動を行っている。

また、尼崎小田高校はサイエンスリサーチ科に加え、国際探求学科、看護医療・健康類型といった特色のある学科や類型を設置しており、互いに連携ができる強みがある。本年度の高校生サミットでは、看護医療・健康類型のクラスで防災マップ作成に用いたGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を、マイクロプラスチック調査にも活用し瀬戸内海の環境マップを作成する。


7月21日に開催された高校生サミットの第1回ワークショップ

実際に7月21日に開催された第1回生徒実行委員会・地域探究スキルワークショップの具体的な取り組みを紹介しよう。

須磨海浜水族園のレクチャールームに集合した生徒たちは、各校が混在した実習班ごとに四つのテーブルに分かれて座り、初顔合わせ。須磨海浜水族園園長の吉田裕之さんから、瀬戸内海や須磨海岸の地域特性についてレクチャーを受けた。瀬戸内海は陸地に囲まれて、潮汐による流れが大きく、波は比較的静かで、人の生活の影響を受けやすいそうだ。須磨海岸はかつてあった砂浜がやせてきたため、防波堤を築き人工の砂浜が整備された。また、洪水の後には海岸に大量にごみが打ち上げられるが、ごみの量は台風の進路に大きく影響を受けることになるという。続いて、「マイクロプラスチック調査」の実施方法の説明を受け、調査に使うメジャーやバケツ、網、スマートフォンなどを持って、須磨海岸へと向かった。

まず、須磨海岸に打ち上げられたプラスチックごみの中でも、現在、大きな問題になっているマイクロプラスチックを浜辺の砂の中から採集する。そして、個数や質量、色、種類などを調査。その際に、採集した場所と各種データをスマートフォンからサーバーに送信し、GISを使ってマイクロプラスチックに関する情報をマップ上で表示する。高校生サミットの特徴は、これまでそれぞれの高校が個別に行ってきた研究だけではなく、7校による共同研究も実施する点である。本年度は新たにGISを用いてそれぞれの調査結果を瀬戸内海の環境マップに反映させて発表することを試みる。そのため、今回のワークショップでは、計測方法、GISの使い方を習得し、今後、各校が地元で実施できるようにすることを目指している。

須磨海岸に移動した生徒たちは4班に分かれ、約1時間半にわたって砂浜4地点でのマイクロプラスチックの調査を実施した。実習には須磨海浜水族園のスタッフや、兵庫県立大学の大学院生なども参加し、計測方法やGISの使い方などをレクチャーした。


毎年、高校生サミットをサポートしている須磨海浜水族園の吉田さんは、応援する理由についてこう語る。

「長年、高校生サミットを継続していくことで、計測したデータや知識、ノウハウが蓄積されていきます。水族園としても彼らのサポートを通じて得た知見を、企画展などで一般の方にも還元できます。また、私自身、これから進路を選ぶ高校生を応援できるのはうれしいですね。実習ができる水族園は日本でも限られており、高校生をサポートする意義と責任を感じています。今後も高校生サミットを通じて協力し、地球の未来を担う若者たちに環境保全の重要性を伝えていきたいと思っています」

初めは互いに遠慮がちだった生徒たちも、協力し合いながら一緒に調査を進める中で徐々に打ち解けていったようだ。午後から行われたディスカッションでは、生徒同士が調査結果から分かったことなどを積極的に意見交換し合う姿が印象的だった。


高校生サミットの共通研究項目を決める

ディスカッションの後には、各班による調査結果の報告と、ワークショップの振り返りが行われた。どの地点にどれだけマイクロプラスチックが見つかったのか各班から報告され、そこから何が推測できるのか議論した。中には、海岸からの距離や高低差、マイクロプラスチックの数との相関関係をグラフにまとめて発表する実習班もあった。

また、実行委員のメンバーは11月16日の高校生サミットで発表する「共通の研究項目」について話し合った。具体的に共同研究の調査対象を何にするかは、先生ではなく生徒自身が決めるのだ。

「マイクロプラスチックの数だけでなく、質量も量るべきだ」、「人工の海岸と自然の海岸で比較すべきだ」など、共通研究項目を決めるため活発な意見交換が展開される。発言する生徒の声がだんだん大きくなり、司会を担当する生徒も堂々としてくるのが不思議だ。最終的な結論は、今回、大雨警報のため参加できなかった2校の意見もふまえ、決定されることになった。

生徒たちは今後、この日実習した計測方法やGISを使って、各校がそれぞれの地域で共通項目を測定し、日本地図に結果をマッピングしていく。結果を持ち寄り、さらに2回のワークショップを通じて考察を深め、共同研究の成果を11月の最終発表会で披露する。瀬戸内海各地の砂の中には、どのようなマイクロプラスチックが潜んでいるのか。地域による違いはあるのか。彼らの研究成果に期待したい。


生徒の探究心は、限りなく広がっていく

このようにして、約7時間に及ぶ第1回ワークショップが終了した。参加した生徒実行委員会の生徒3人に感想を聞いた。

「自分が尼崎小田高校に入学したのは、高校生サミットに参加して、瀬戸内海の環境問題に取り組みたかったからです。その第1歩が踏み出せてうれしい。また、別の学校では海底の環境調査を実施しているそうなので、いつか自分も関わってみたいです」

「高校生サミットへの参加は2年目ですが、最近はペットボトルに入った飲料はできるだけ買わないなど、意識が大きく変わりました。以前は、科学にそれほど関心がなかったけれど、何回かの実習を通じて、海岸ごとにマイクロプラスチックの色や大きさ、数が違うことがわかり、その理由が何なのか、少しずつ興味がわいてきました」

「現在、世の中で問題視されているマイクロプラスチックに関する研究を行っていることをとても誇りに思っています。最近は科学だけでなく、その背景にある経済の動きにも興味を持つようになりました。また、今日のワークショップに参加して、自分は計測方法ばかり気にしていましたが、他の人の違う視点が新鮮でした」

今回は初めてのワークショップだったが、それぞれに確かな気づきや学びがあったようだ。今後、さらに2回のワークショップを経て、最終発表会までに生徒がどのように成長するのか、今から楽しみだ。

【INTERVIEW】

兵庫県立尼崎小田高等学校 校長:中谷安宏さん  SSH担当教諭:秋山衛さん

――これまでの取り組みの中で、工夫してきた点などをお聞かせください。


秋山さん:一番大きな変化は、2014年度に生徒実行委員会を組織したことです。2013年度までは、教諭が生徒たちを指導しながら、高校生フォーラムを推進していました。しかし生徒実行委員会を組織したことで、新たに参加校の生徒同士の活発な交流を通じた「コミュニケーション力」や「マネジメント力」の育成という教育目標が加わりました。生徒実行委員会に企画・運営を任せることで、生徒たちの自主性も高くなりましたし、比例して生徒たちの成長度合いや達成感、満足感も非常に高まりました。この方策は成功だったと、大きな手ごたえを感じています。


――近年、国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への取り組みが世界的に活発化しています。高校生サミットでもSDGsを意識されていますか?


中谷さん:高校生サミットはSDGsの取り組みそのものです。われわれは特にSDGsを意識してこのような研究活動を行ってきたわけではなく、約10年間にわたり取り組んできた研究活動が、今、求められているSDGsの活動だったということになりますね。


――他の学校が、高校生サミットのような主体的な研究活動を始める場合、まずどうすれば良いか、教えてください。


秋山さん:われわれにできることは、どんなテーマや手法があるかなどのヒントを与えることや、考える場を提供することでしょうか。すると生徒たちはどんどん新しいことを開拓していくものです。そして、取り組みを継続していくことで、生徒たちは前年の取り組みからさらに新しい課題を見つけ、研究は進化していきます。高校生フォーラムに参加して、その後、大学でも本格的に研究を継続したいと環境関係の学部に進学した生徒も少なくありません。進学後、同じ大学の研究室で高校生フォーラムの同窓生が顔を合わせたという話もあり、うれしいですね。他校との連携も、発表会などと最初からハードルを高く設けず、まずは情報交換を目的とするなど、参加しやすい場の提供が大切かもしれません。

中谷さん:地域との連携、大学との連携においては、互いの研究に役立つような関係が成り立たないと長続きしません。今回のワークショップに参加してくれた京都大学の大学院生は、高校生にポートフォリオのまとめ方を指導し、われわれには生徒の成長度合いをはかる評価のあり方を助言してくれます。それと同時に、彼らは自分たちの教育学の研究にも役立てています。このような連携ができたことが、高校生サミットが盛り上がっている秘訣だと思っています。今後も生徒を主体とするこの研究活動を支えながら、明るい未来を担う人材の育成に努めて参りたいと思います。

兵庫県立尼崎小田高等学校
校長
中谷 安宏さん
兵庫県立尼崎小田高等学校
サイエンスリサーチ科長
SSH研究推進部長
教諭
秋山 衛さん
神戸市立須磨海浜水族園
園長
吉田 裕之さん
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