2019年度 SDGs特集

2030年の世界のあるべきかたち「SDGs」
〜より良い未来社会の実現に向けて、期待される日本の科学技術~

掲載日:2019年7月25日
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史さん

「SDGs(エスディージーズ)」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。「Sustainable Development Goals」の頭文字をとったもので、日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。
気候変動や貧困、男女の平等、そして世界中で大きな話題を集めている海洋プラスチック問題など、地球上には数多くの社会課題が存在する。SDGsは、これらの社会課題を、国際社会が協力して2030年までに解決を目指すための「目標」だ。SDGsの達成には、国や地方自治体、企業だけでなく、私たち一人一人にできることも多いという。さらには、科学技術の貢献も大いに期待されている。
SDGsとはどのようなもので、私たちは日々の暮らしの中でどう関わっていけば良いのか。SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授の蟹江憲史さんに話を聞いた。

持続可能な社会の実現を目指して

「SDGsは“未来の世界のあるべきかたち”です」。蟹江さんはSDGsを一言でこう表現する。SDGsは、国際連合に加盟する193カ国の全会一致で2015年に合意された国際目標。17の達成すべき目標と、それをさらに具体化した169のターゲットが掲げられている。SDGsの合意と同時に「(地球上の)誰一人取り残さない(No one will be left behind)」との誓いも立てられ、経済・社会・環境のバランスを重視しながら、国際社会が一体となってSDGsの達成を目指している。


SDGsが掲げられた背景には、人類の経済活動や開発行為が、地球規模へと拡大したことが挙げられる。その結果、現代の地球環境や人間社会に大きな影響が及んでいる。

「1970年代、世界各地で起きた公害や環境破壊をきっかけに、対策が必要だというムードが高まりました。その中で、社会を発展させながら地球を守る“持続可能”という考え方が生まれました。以来、ルールや義務の課された国際的な枠組みがいくつもつくられるようになりました。気候変動への対策として、温室効果ガスの排出量を抑えるための国際条約『京都議定書』などは、日本の皆さんにもおなじみだと思います」(蟹江さん)

しかし、京都議定書のように明確なルールがある枠組みとSDGsには決定的な違いがある。SDGsにはルールや義務がなく、目標だけが定められている点だ。

広がるSDGsへの取り組み

2015年にスタートしたSDGsは今、日本でも広がりを見せつつある。その勢いは、スタート以前からSDGsを研究する蟹江さんも驚くほどだ。

日本政府は2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、国としてSDGsを推進するための体制を整えた。その後、SDGsの達成が地域活性化・地方創生にもつながるとして、地方自治体にも動きが広がった。すでに全国60カ所もの自治体が「SDGs未来都市」に選定され、各地域でSDGs達成に向けた特色ある取り組みが行われている。

さらに最近では、経営者層を中心に企業にもSDGsが浸透し、具体的な動きが徐々に活発になっている。

「はじめは国や地方自治体における取り組みが目立っていましたが、最近は企業への浸透に驚いています。企業がSDGsを意識しながら自社の方向性を考えることによって、未来の世界が求めるものを今から提供できれば、マーケットを広げることにもつながります」。

“より良いもの”を買いやすく:楽天

インターネット通信販売大手の楽天は、消費者の「環境や社会に良い製品を買いたいけれど、どこで買えばいいのかわからない」といったニーズに応えるため、「未来を変える買い物を。」をスローガンに、特設サイト「EARTH MALL with Rakuten(アースモールウィズラクテン)」を立ち上げた。

環境に配慮した木材の使用を証明する認証を受けた商品や、環境保全活動を行う有識者が推薦する商品などを集めている。


持続可能性と業績アップを両立:ユニリーバ

同社の前CEOポール・ポールマン氏はSDGs策定に関わった一人。せっけんやシャンプーなどの衛生用品・消費財メーカーとして、環境負荷の低減や働く人の生きがいなど、17の目標すべてへの貢献を目指している。

消費者も、同社製品の中で特に持続可能性に配慮してつくられた製品を意識的に選ぶ傾向を示しており、「持続可能性」と「企業の活動」が相反するものでないことを証明している。


中小企業でもできる!SDGsに全方位で取り組む:大川印刷

神奈川県横浜市の大川印刷は従業員40名ほどの中小企業。同社は印刷を通じて社会課題の解決を目指している。環境に配慮した紙・インキ・印刷方法を採用するほか、配送時も電気自動車やディーゼル車を使用。さらに、廃棄物削減のためにプラスチックコンテナによる納品を実施し、営業から納品、廃棄に至るまで、一貫して環境負荷の低減に取り組んでいる。

これらの取り組みが評価され、2018年の第2回ジャパンSDGsアワードではパートナーシップ賞を受賞した。


さらに蟹江さんが注目するのは、子どもや若者へのSDGsの広がりだ。学校でもSDGsを取り入れた授業が行われはじめ、認知度が高まっている。高校生がSDGsを学ぶために蟹江さんの研究室を訪れたり、大学生がSDGsの視点から企業の活動を研究したりする動きもあるそうだ。

ここまでSDGsが広まったことについて蟹江さんは「SDGsは達成すべき目標だけが決められていて、手段は自由です。だからこそ、さまざまな人がSDGsに関われるのだと思います」と指摘する。


地球規模の課題に、私たちができることとは

一方で、地球規模のスケールの大きな社会課題に対して、どうやって取り組めばいいのかと悩む人も多いだろう。今はまだ、多くの人々にとってSDGsが身近とは言いがたい。

「SDGsを、“地球にいいことをしたい”“社会のために何かしたい”と思ったときの、行動のヒントにしてもらいたいと思います。例えば、地球温暖化や気候変動のために何かできないかと考えたときに、契約する電気を再生可能エネルギーに変える、屋根にソーラーパネルを設置するといったことは、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)に貢献します。プラスチックのレジ袋を断ることも、ゴール12(つくる責任 つかう責任)や14(海の豊かさを守ろう)に貢献することです。でも、完璧を求める必要はありません。私にもレジ袋を頼ってしまう場面がどうしてもあります。でも、2回に1回断れば、50%減らせることになる。SDGsを知って、できることから意識・行動を変えることが重要なのです」(蟹江さん)

地球上に暮らす私たち一人一人が意識を変え、行動を変えることが、地球規模の社会課題を解決するための大きな力となる。私たちは、暮らし方を変えるために、どのようなことを大切にすれば良いのだろうか。

「学生たちと接していて感じることですが、“柔軟であること”が最も大切ではないでしょうか。SDGsにはルールがないからこそ、型にはまらず考えることが重要です。ある企業でも、1週間の中で一定の“何も考えない”時間を設けているそうです。組織のルールや決まりごとからちょっと外れるタイミングをつくってみることは、イノベーティブな発想を生む一つの手段かもしれません。私も先日、新しい財布を買おうと思い、“持続可能な革製品とは”と考えてみました。輸送コスト・エネルギーの観点ならば〈地元でつくっている製品〉、貧困解決の観点ならば〈途上国の人々の生活を支える製品〉、無駄を出さないという観点ならば〈食肉用の家畜から取れる革を使用した製品〉というように、さまざまな選択肢が浮かびます。SDGs的には、どれも正解です。思い浮かんだ答えの中で、取り組みやすいものを選べば良いのです」(蟹江さん)


科学技術はSDGsにどう貢献し、SDGsは科学技術をどう変えるか

地球や人類が持続し、発展し続けるための行動目標であるSDGs。私たちの暮らしを豊かにし続けてきた科学技術には、どのような役割が期待されているのだろうか。

「SDGsの達成に貢献するための科学技術は、必ずしも新しいものでなくていいのです」と蟹江さんは言う。例えば、トラックなどによる物流を削減し、排気ガスによる健康被害や大気汚染を減らすには、ドローンによる輸送や、3Dプリンターを用いた現地生産システムが役に立つと考えられる。海外では、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)を活用して渋滞が起きやすい地点を特定したことで、緊急車両の通るルートが確保され、救急車などの到着時間が大幅に早くなった事例もある。これらは、いずれも世の中ですでに使われている技術を活用したアイデアだ。

「SDGsは“答えだけが載っている問題集”のようなものです。答えにたどり着くために解き方を考えることは、SDGsをガイドにして既存の技術の活用法を見つけたり、新しい技術の研究開発を進めたりすることでもあります」(蟹江さん)


さらに、SDGsを実践するための重要な考え方が“パートナーシップ”だ。

「SDGsは、これまでつながりのなかったものと人をつなげる“共通言語”でもあります。それぞれが持つ力を集めて一つのものをつくり上げる“共創”は、ゴール17(パートナーシップで目標を達成しよう)にもあるように、とても重要な要素です」(蟹江さん)

17の目標を別々に考えるのではなく、それぞれの目標が結びついた一体のものと捉えるのがSDGsの本質。しかし、個人や一つの組織ですべてをカバーすることは不可能に近い。そのときに必要なものが「共創」だ。専門性が高ければ高いほど、さまざまな分野の力を結集する効果は高まる。高度化し複雑さを増す科学技術の分野でも、「共創」することでSDGsの達成に貢献するイノベーションを生む可能性が高まるだろう。

日本の科学技術は世界の課題解決をリードできる

蟹江さんは日本の科学技術に期待を寄せている。

「日本は高度な科学技術立国である一方、世界でも突出して人口減少や高齢化が進む“課題先進国”でもあります。世界は、日本がこれらの課題をいかに解決するか注目しています。日本発の科学技術で解決させることができれば、日本が世界共通の課題解決をリードすることにもなります」

SDGsは2030年が達成の目標年。わずか11年後だ。蟹江さんによると、「ポストSDGs」をめぐる検討はすでに始まっているという。SDGsをガイドに研究開発を続けていけば、2030年よりも先の世界で日本が科学技術のトップランナーになることも夢ではない。

環境負荷を少なく、魚を養殖:愛媛大学

世界的な人口の増加などを背景に、魚の需要が高まっている。一方で、天然魚の漁獲高は長年頭打ちになっており、成長産業として世界的に注目されているのが養殖業だ。しかし、食べ残しの餌などによる環境負荷の大きさが課題でもある。

愛媛大学では地域の漁業関係者などと連携し、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用した餌やりの効率化を実現することで、環境負荷の軽減に取り組んでいる。


科学技術とパートナーシップで地域の災害リスクに立ち向かう:大阪市立大学

地震や台風等の自然災害が多い日本では、SDGsのゴール11(住み続けられるまちづくりを)などに関連する災害対策も重要な課題だ。対策にあたっては、地形など地域特有の条件・災害リスクも考慮する必要がある。

大阪市立大学は、GISやAR(Augmented Reality:拡張現実)を都市の防災や減災、まちづくりに取り入れている。開発したARアプリケーションでは、今いる場所の災害リスクや、 近くにある防災関連施設などを画面上で確認することができる。また、訓練プログラムの開発には地域住民も加わり、“パートナーシップ”でプロジェクトを進めている。

“人間中心”で未来をつくる

既存の科学技術をSDGsの視点から定義し直し、一方でSDGsの達成に貢献するための科学技術を新たに生み出す―。科学技術にかかる期待は非常に大きい。しかし、科学技術の発展が人々の“今”を大きく変えることへの不安や拒否反応も少なくない。

「科学技術そのものに善悪はありません。でも、使う側次第で悪用しようと思えばできてしまうことも事実です。だからこそ、私たちの社会や未来を良くするために、科学技術をどう使えば良いのか。その議論の中心に据えるのはあくまでも私たち“人間”であるべきです。そのときの指針として、SDGsが必要なのだと考えます」(蟹江さん)

世界中の人々が一丸となって目指すより良い未来社会の実現に向け、日本の科学技術のさらなる発展が期待される。

蟹江憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授
国際連合大学サステイナビリティ高等研究所 シニアリサーチフェロー

北九州市立大学助教授、東京工業大学大学院 社会理工学研究科准教授を経て、2015年より現職。2013年度からは、環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-11(持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究プロジェクト)プロジェクトリーダーを3年間務めた。
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