観察法のイロハのイ
古きイヌの性質を受け継ぐ秋田犬

掲載日:2019年3月29日
秋田犬 (画像提供/秋田犬保存会)

がっしりと勇ましく凜々しい姿の秋田犬。急死した飼い主を渋谷駅前で待ち続けた忠犬ハチ公も秋田犬だ。ハリウッドでハチを題材にした映画がつくられたこともあり、秋田犬の人気は海外にまで広がっている。秋田犬の魅力はどこからくるのか、イヌの研究をしている菊水健史さんに聞いた。

達人に聞きたいコト

秋田犬ってどんなイヌ?

秋田犬は、日本犬の一種で、秋田地方でクマやイノシシなどの狩猟に用いられていた「マタギ犬」が由来です。もともとは今の柴犬くらいの大きさでしたが、大きな動物の猟で役立つよう、体の大きな個体が選ばれたり、海外から入った大型犬種と交配させたりして大型化されました。成犬では35〜60kgになる秋田犬は、日本犬6種のうちで唯一の大型犬です。

秋田犬は、がっしりとした体格で、三角形でピンと立つ耳、大きな犬歯、きれいに巻いた尾などが特徴で、凛々しい立ち姿は堂々とした風格を感じさせます。性格は、家族関係を大事にし、比較的強い縄張り意識を持っています。飼い主として認めた相手に対しては忠誠心が強く従順で、一度飼い主と決めた相手は簡単には変えません。飼い主でないと判断した相手には、警戒してなかなか心を開きません。

こうした性格は秋田犬を含む日本犬に共通しており、それはかつての人間とイヌの関係性が影響しています。洋犬は、人間が利用しやすいようにと目的に合わせて選択交配されてきた歴史があり、室内で飼われることが主流でした。そのため、人間への依存度が高く、飼い主以外にも慣れやすく社交的です。一方の日本犬は、日本人がイヌを「自然の師匠」と考え、自然の状態であることを尊重し、外で放し飼いにされてきた歴史があります。家の外で人間と離れて生活していたので、日本犬は洋犬に比べて自立心を残しているのです。

※国の天然記念物に指定されている日本犬のうち現存しているのは、柴犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬、北海道犬、秋田犬の6種

イヌはいつ頃からいるの?

イヌの祖先は今から5万〜3万5000年前、氷期末期頃に現れたといわれています。イヌは人間がオオカミを家畜化したものが起源という説がありましたが、現在は、イヌは人間と共生するずっと以前からオオカミと別の進化をしていたと考えられています。

オオカミは家族を基本単位とする群れで生活します。縄張り意識が強く、その中を群れで移動し、狩りをします。警戒心が強く、狩りや攻撃以外で他の動物には近づきません。そのため、人間が飼い慣らすことは困難だったと思われます。

オオカミとイヌの共通祖先から進化したイヌの祖先は、人間に近づくことができました。人間の生活圏の周囲にイヌの祖先が暮らし、人間が与えた食べ物を食べました。そして、その当時まだ生息していた大型肉食獣から人間の生活圏を守り、狩りで獲物を取ってくるなど、共生関係がつくられていきました。イヌは厳しい自然の中で、人間が生き抜くための大きな助けになったと思います。現在のような人類の繁栄があるのも、イヌの存在のおかげかもしれません。

イヌとオオカミの違いは?

人間と距離を保ってきたオオカミと、人間と共生してきたイヌ。この人間との距離感、具体的には、人間とコミュニケーションできるか、人間に依存するかが、イヌとオオカミの大きく違う点です。イヌには人間が指さした方向を見る、困ったときに人間と視線を合わせようとするといった行動がみられますが、オオカミにはみられません。また、形態では、頭と口先の境目にあたる額段と呼ばれるくぼみが、イヌにはありますが、オオカミにはありません。

このように、行動や見た目に違いのあるイヌとオオカミですが、実は生物学上は同じ種に分類されます。しかし、遺伝子のレベルで違いを比較していくと、オオカミのグループと、秋田犬など日本犬が含まれるグループ、洋犬のグループに大きく分けられることがわかっています。そして、オオカミと日本犬のグループは遺伝的に近いことが明らかになっています。

たしかに秋田犬は洋犬と比べると額段がなだらかで、人間への依存度は高くありません。家族以外への警戒心の強さも、オオカミに似ています。

洋犬とは異なる、人を寄せつけない気高いたたずまいや飼い主への忠誠心の高さ。これらが秋田犬の人気の理由といわれていますが、秋田犬の魅力は古代のイヌ、そしてオオカミの性質を受け継いだものといえるでしょう。

※生物学上では、自然条件の下で交配して子孫を残すことができれば、同一の種とみなす。オオカミとイヌは交配して子孫を残すことができる。

オオカミとイヌの仲間たち

オオカミとイヌの分類についてのイラスト

イヌと仲良くなるには

  • 知らないイヌとは触れ合わない
    飼い主さんや管理している人の許可を得てから触れ合いましょう。
  • 知らないイヌと目を合わせようとしない
    イヌにとっては、威嚇の合図です。
  • イヌの前に手を出すときは、握った状態で下からゆっくりと
菊水さんが飼っているプードルのケビンクルトと。
普段は研究室にも一緒に出勤している。
菊水 健史(きくすい・たけふみ)
麻布大学獣医学部介在動物学研究室教授。獣医学博士。三共株式会社、東京大学農学部生命科学研究科助手などを経て2009年10月より現職。専門は動物行動学、行動神経科学、比較認知科学、神経内分泌学。著書に「イヌとネコの行動学」(学窓社)など。
記事一覧ページへ