2019年冬号 交わるアートとサイエンス

AI研究者とクリエイターが考える「AIがアートをつくる未来」とは

掲載日:2019年1月9日
左:クリエイター 伊藤博之さん 中:聞き手 木村政司さん 右:AI研究者 中山浩太郎さん

高度化したAI(Artificial Intelligence:人工知能)はさらに進化し、表現力を獲得しはじめた。AIが描いた絵画、AIが作った音楽、AIが書いた小説などが誕生し、高額で売買されたものもある。しかし、それらの作品は「アート」といえるのか、AIは人間の代わりになるのか。そもそも作品の源となる人間の「感性」や「美意識」とは何かなど、アートの本質に迫る疑問も湧いてくる。

ここではサイエンスとアートの関係に詳しい木村政司さんが聞き手となり、初音ミクの生みの親として知られるクリエイターの伊藤博之さんと、AI研究の最前線で活躍する中山浩太郎さんに語り合ってもらった。

プログラミングはアートに近い

木村 今回の対談のテーマは「AIとアート」です。日本語で人工知能と呼ばれるAIは、「アーティフィシャル・インテリジェンス」の略語ですが、私は「アートなインテリジェンス」でもいいのではないかと思うのです。それくらい現在のAIとアートは近いところにあると感じています。そうなってくると、AI研究者もクリエイターと呼んでもいいのではないかと思うのですが、中山さんは自分のことをクリエイターだと思いますか? それともエンジニアでしょうか?

中山 仕事としてはAI 研究者です。それでも、プログラミングをしているときにはクリエイターとして仕事をしているように感じることがあります。世間では、プログラミングには数学が必要だと言われていますが、私はあまりそうは思っていません。それよりも一つの作品を作っている感覚に近いです。私が好きな本『ハッカーと画家』(ポール・グレアム著)にも、プログラミングは創造的な活動の一つであると書かれていました。プログラム全体の構成を考えるのは物語の世界をつくるような感覚ですし、自分が考えた通りに、コンピューターが効率良く動くように工夫する作業は創造的です。もちろん、エンジニアに近い部分もありますし、どちらの要素もあると思っています。

木村 伊藤さんはバーチャルシンガーの「初音ミク」を生み出したクリエイターですが、自分をエンジニアだと感じることはありますか?

伊藤 私はクリエイター側の仕事しかしていません。そんな私から見ても、コンピュータープログラムには洗練されて美しいソースコード(プログラムの設計図)やアルゴリズム(計算の手順)といったものがあり、人柄が表れるものだと思っています。そういうところは、私が取り組んでいるデザインの仕事に近い。デザインは「ここに線を1本引くか引かないか」で永遠に悩むような作業です。良いデザインはシンプルで美しく、余計なものを削ぎ落とすところがプログラムとデザインとで共通しているような気がします。

中山 確かにそういうところはありますね。プログラムを組むとき、「とにかく動けばいい」という考え方をする人もいますが、できるだけスッキリしたソースコードにするために何時間も悩む人もいる。そういう人はプログラムに美しさを求めているんですよね。

伊藤 10行のソースコードを1行にするために何時間もかけるなんて、本当は合理的ではないんですけれどね(笑)。でも、そこにこだわってしまうところがアートらしいのかもしれません。

木村 私もデザイナーなので、その感覚はよくわかります。デザインの世界では、マイナスの作業で美しく見せることを大切にしています。何も描かれていないスペースのことを「ホワイトスペース」というのですが、このスペースがきれいに見えるようにデザインをするよう、学生にも指導しています。

中山「プログラミングの世界でものを作り上げる面白さを感じています。」
木村「「ものを作りたい」というところは2人とも共通していますね。」

AIが上司になると平和になる?

木村 今の世の中では、人間らしいAIよりも完璧なAIが求められているように見えます。それは創作とは逆方向ですね。

伊藤 今の日本には失敗を許さない空気が漂っているし、人の上に立つ人も責任を取りたがらないですよね。だったらいっそのこと、AIが上司になるような社会のほうがいいかもしれないとも思います。AIに責任ある判断をさせて、「AIが言っているのだから仕方ない」と言えるようにして、あえてAIに支配されてしまったほうが、世の中がうまく回るような気もします。その一方で、「人が人らしくあるためのAI」という、創造的なアプローチの2つがあるのではないでしょうか。

中山 確かに。極端な例えですが、AIに政治を任せたら戦争がなくなるかもしれませんよね。人間が関わると、どうしても判断に偏りが出てしまいますから。その点AIならば、数百、数千もの条件やデータを考慮して物事を判断するような、人間の能力の限界を超える作業ができて、しかも感情に流されることはありません。AIに人間が支配されるというよりも、AIを人間がうまく使って、効率的に判断したり、物事を客観的に進めたりすることは、とても大事だと思っています。

木村「AIを自然に受け入れることで、徐々に世の中が変わっていく。その連続ですね。」
伊藤「新しいビジネスが生まれて、ライフスタイルも変わっていくと思います。」

人間らしさとは何か

木村 AI がどのような未来に向かっていくかということでは、「感性」や「美意識」といったものがとても重要になると思うのですが、AIは人間のような「感性」や「美意識」を獲得していくでしょうか。

伊藤 その質問は、「AIは人間の代わりになるのか」という今回のテーマの本質に近いものですよね。そもそも人間らしさはどこにあるのか、という問題でもあるかもしれません。人間は不完全な存在で、失敗もするし、嘘もつく。そういうダメなところに人間の魅力があり、文学や映画では、ダメだけれど魅力的な主人公が登場して世界観をつくっています。そういったものを機械学習などの手法でAIに学習させることが可能なのかということには、かなり関心があります。たぶん「プログラミングの美しさ」のようなものは比較的到達しやすいと思うのですが、「汚れている」とか「ダメな感じ」をどう出していけるでしょうかね。

中山 有名な格言に「人間は間違いを起こすようにつくられている」という言葉がありますが、きっとそのほうが人間にとって良かったのだと思うのです。もしも人間が完璧で間違いを起こさない生き物だったら、新しいことにチャレンジしたり、創造性に基づいて進化をしたりすることはなかったはずですから。その部分をAIが獲得できるかどうかについては、私も大いに興味がありますが、今の技術ではもちろん無理です。でも、AIが人間の感性に響く結果を出せば評価されて、そうでなければ否定されるという学習を繰り返すことで、将来的に感性のようなものを持つことができるかもしれません。

伊藤 不完全さでいうと、「初音ミク」などのバーチャルシンガーに滑舌の悪い発音があったので、その部分を修正したアップデート版を出したんですよ。ところが、ファンの方たちは「前のほうが良かった」と言うんです。こちらは良かれと思って修正したのですが、欠陥の部分に愛着が湧いていたと。ロボットでもAIでも、愛着を持って接している人は、欠陥の部分を個性として捉えているようです。かと思えば、人間にもルールに厳しく、少しでも破ることを受け入れられない人もいますよね。そのように機械的な人間がいて、人間的な機械もあると考えると、人と機械の違いは何なのでしょうね。

アートを進化させるテクノロジー

木村 アートとテクノロジーの融合という点では、私はAIがアートな感性を持つことを期待していますが、お二人はどうですか?

伊藤 私もその点はAIに期待しています。例えば、CDの中の曲は、曲名もテンポも長さも決まっていて、朝でも夜でも、夏でも冬でも、いつ聴いても変化することはない、固定された作品です。しかし、アーティストとしては、夜は夜バージョンで聴かせたいと思うかもしれませんし、もう少し流動的な作品作りがあってもよいと思う。だからといって、いくつものバージョンのCDを作りたいわけでもありません。でも、感性を持つAIが生まれて、気分や周辺の環境によって曲を変化させることが可能になれば、アーティストはその技術を使うことを前提とした作品作りをしようとするはずです。ただ、そのような技術はクリエイターが望んでつくられるものではないし、エンジニアがアートを変えてやろうと提案することでもないと思います。AIが進化して、それにアーティストが反応する、というやりとりによって作品の作り方が変わり、作品も変わっていく。そうやってテクノロジーとアートの関係も進化していくのではないでしょうか。

中山 私が専門とするテクノロジー分野で考えると、AIがどのように表現方法を獲得しているかという視点はとても面白いと思います。例えば「スタイルトランスファー」というアプリを使えば、写真をピカソ風やゴッホ風に変えることができます。最近ですと、数万枚ものたくさんの中世の肖像画の画像データを学習させて、そこからAIが作り出した絵画が数千万円で落札されたというニュースもありました。表現をする機能の一部を、AIがつくれるようになってきたということです。実際には、新しい表現をつくるというよりも、それまでに学習したものからのパターンの組み合わせに過ぎません。しかし、それによって表現の幅が広がり、作品を作るための新しいプロセスが生まれています。伊藤さんがおっしゃる通り、そういうツールを使ってアート作品を作ろうとする人が増えるでしょう。ただし、作り出した作品に対してAI自身が「これが良い」と思うことはなくて、そこに自主性はありません。それでも人間の感性に関わるような、何らかの評価を学習させることができれば、AIの作る作品が人の感性を揺さぶることができるかもしれません。

伊藤「何でも作れる器用なAIより個性を持つAIが出てくると面白いですね。」
中山「作品そのものに加えて「誰が作ったか」はかなり大きいですよね。」

人の感性を揺さぶるAI

木村 こうした話はAIだけの問題ではなく、人の創造性をどこまで進化させたいかということでもありますね。AI研究者としてもクリエイターとしても、「人の感性を揺さぶるものを作り上げていきたい」と感じているのでしょうか。

中山 アート作品を作り上げることには興味がありますが、それをAIにやらせるのがいいのかどうかは、正直わかりません。「アート作品の価値とは何か」を考えると、私自身は絵画などを見て美しいと感じることはあまりなくて、どちらかと言うと、その絵画が描かれた背景や思考の道筋にとてもひかれます。美しいと感じるのは機能美と呼ばれるもので、洗練されたデザインに感銘を受けることはあります。そう思うと、AIがきれいな絵を描くことに価値があるのかどうかは難しいところですね。

木村 AIが描いた絵がかなり高い金額で売られるということは、何らかの価値が認められたということでは?

中山 あれは希少性が評価されたのではないでしょうか。AIが最初に作った絵画だから価値があるのであって、2作目以降の作品にはそれほどの金額はつかないと思います。それよりも建築とかプロダクトデザインにAIを使うことのほうが、私には興味があります。建築などではさまざまな制約条件のもとで素晴らしいデザインが生み出されていますが、その制約の部分にAIを投入する。そのぶん人間は、もっと物事の全体を見るようなデザインに力を注げるようになり、より良いプロダクトができる可能性が広がるのではないかと思うのです。

木村 それは面白いですね。クリエイターとしてもそういう使い方は考えられますか。

伊藤 例えば、「インスタグラム」という写真投稿SNS(Social Networkig Service)があります。あれは写真のエフェクト 機能が優れているのがポイントで、ただの日常写真を非日常のように加工して、しかも投稿できるというところが社会に受け入れられたのだと思います。中山さんが紹介してくれた「スタイルトランスファー」というアプリにどれくらいのニーズがあるかはわかりませんが、絵心がなくて苦手な人には、○○風の絵が描ける点が「インスタグラム」のように受け入れられるかもしれません。しかし、それを「アート」と呼ぶには大げさすぎますし、そもそも誰もがアーティストになることの必要性があるのかはわかりません。ただ、誰でも手軽に作品作りができるというところには、ニーズがあるような気がします。

※インターネット上で人と人がつながり合い、交流できるサービス

将来アートとAIはどうなるか

木村 伊藤さんと中山さんには、違う考えもあるけれど、「人間のためのAI」という部分は共通していますね。では、最後にお聞きします。お二人は10年後どうなっていたいと考えていますか?

中山 私がAIの世界で技術をつくっていきたいと思ったきっかけは、映画「スター・ウォーズ」なんです。「スター・ウォーズ」に出てくるロボットを作りたいと思ってこの世界に入ったので、それは実現させたいですね。中でもR2-D2はとてもインテリジェントで、人間の言葉は話せないけれど、機械語ですごく効率良くコミュニケーションしてくれますよね。そのように、人間の限界を超えた知能みたいなものに行きつく可能性がありますから、それを追究したいと思っています。

あとは、やはりAI人材の育成ですね。今、世界中でAI人材を育成するための研究所や大学が設立されていて、そこで育てられた人たちがどんどん産業界に出て、技術開発を進めています。日本でもこれを進めないと、将来AI人材がいなくなり、海外との競争にも負けてしまいます。まずは目先の大変な状況をどうにかしなければなりません。

伊藤 今、世の中に流れている音楽の多くは「生」ではなく、ピアノでもドラムでもバイオリンでも「ヴァーチャルインストゥルメント」と呼ばれる、コンピューターでシミュレーションした楽器で作られています。声の部分もボーカロイドが歌っていますが、それは人間の声がボーカロイドに置き換わったというよりも、新しいジャンルとして生まれてきたと考えるべきでしょう。

ほかにも、1人でオーケストラの全ての楽器のパートをレコーディングするとか、普通ならとても実現できないようなことが実現できています。それをネット上で公開することもできます。私はそういう現状を見て、AIを含むテクノロジーというのは、人間のクリエイティビティ(創造性)をサポートしてくれる存在だと思っています。AIがヒラメキみたいなものを提案してくれて、その中からクリエイターが選んで、判断して、作品を作り上げるというように、AIが作品作りを効率化するツールになる。人間をアシストしてくれる補助動力みたいなものとして、AIを活用することができるはずですし、自分はそういうことを目指していきたいと思っています。

木村 AIは人を切り捨てるものではないし、これからの世界では、人はAIを切り離すこともできなくなってくるのだから、共存共栄することが理想だということですね。今日はとても勉強になりました。本当にありがとうございました。

木村「「アート」と「サイエンス」に分けて考えるのはナンセンスだと思っています。」
木村政司(きむら・まさし)
日本大学芸術学部長。1955年千葉県生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ワシントン州立大学大学院修了。ナショナル・ジオ・グラフィック契約イラストレーター、サイエンティフィックイラストレーション、デザイナーなど幅広く活躍。2004年日本大学芸術学部教授就任。2017年より現職。
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