2018年秋号 元気な地域のつくりかた

長崎県壱岐市
島民みんなのアイデアで企業も若者も集まる豊かな島へ

掲載日:2018年10月17日
辰ノ島 (画像提供:壱岐市)

長崎県の離島、壱岐市は人口減少や少子高齢化、1次産業の後継者不足などの課題に対して、住民対話や島外の人々との交流を基盤とした、さまざまな取り組みを始めている。

日本地図:長崎県壱岐市の位置

後継者不足に悩む離島、壱岐

長崎県壱岐市は長崎県北部、日本海に浮かぶ離島だ。福岡市の博多港からアクセスがよく、高速船で約1時間、フェリーでも2時間ほどの距離に位置している。島の規模は南北約17km、東西約15kmほどで平坦な土地が多いのが特徴。農業では肉用牛の飼育が盛んで、水産業ではマグロやウニ、イカなどの漁獲高が大きい。夏を中心とした観光業も盛んだ。

壱岐市では少子高齢化とともに人口減少が進行している。国立社会保障・人口問題研究所では、2018年3月31日現在で2万6857人の人口が2040年には1万8000人台にまで減ると推計する。

「島内にある2つの高校では約800人が学んでいますが、約9割が進学や就職で卒業後には島外へ出てしまいます。結果として、基幹産業である1次産業では後継者不足が続いているのです」と壱岐市役所の小川和伸さんは深刻な状況を語る。

出典:総務省「国勢調査報告」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」

目標を持って地域課題に取り組む

市ではこうした状況を改善するために、産業の活性化や壱岐の魅力発信、島外の人との交流を増やすことなどを目指し、2015年に「壱岐市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略」を定めた。大きな目標は、2060年になっても1万8000人の人口を維持することで、その対策として島外からの移住支援や子育て支援といった人口減少対策、農業・水産業などの産業振興の方針を打ち出したのだ。

また、2017年4月にいわゆる「有人国境離島法」が施行されると、市は国からの交付金を活用することで九州本土への運賃を安くしたほか、輸送にかかるコストの支援、滞在型観光の浸透などを後押ししてきた。こうした地域の課題への継続的な取り組みはやがて、SDGs 未来都市としての選定へとつながっていく。

※SDGs(Sustainable Development Goals):国連の提唱する「持続可能な開発目標」のことで、持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットで構成されている

島内外の人々が対話を重ね、持続可能な開発目標に取り組む

SDGs未来都市とモデル事業に選定

壱岐市役所 企画振興部政策企画課
主幹 小川和伸さん

「これまで市が取り組んできたことをもっと加速するためにはどうしたらよいか。注目したのは、政府が地方自治体での推進を後押ししようとしていたSDGsでした」と小川さんはきっかけを語る。

内閣府ではSDGsに対して優れた提案をする「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」を募集。壱岐市はこれまでの取り組みをベースに、経済、社会、環境の3つの側面を重視した取り組みの計画を作成し、応募した。そして、2018年6月、「SDGs未来都市」(29都市)と「自治体SDGsモデル事業」(10都市)の両方に選ばれたのだ。離島の自治体から選ばれたのは壱岐市だけである。

2030年の壱岐の姿を考える

「SDGs未来都市」として壱岐市が2030年に実現する目標は、「壱岐活き対話型社会『壱岐(粋)なSociety5.0』」である。

壱岐は2000年前から海外との交易を続けてきた国境の島だ。そして、今もなお、人々の対話を通して島外との交流を図っている。SDGs未来都市でも、人々が交流する機会をさらに増やすことで実現する『対話型の社会』を目標として掲げたのである。

「まず、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)などの先端技術を取り入れて1次産業の課題を解消します。また、生産した作物を自動運転で輸送するEV(Electric Vehicle:電気自動車)の仕組みを作り、その仕組みを使って高齢者が島内を自由に移動できるようにすることも考えています。クリーンで持続可能な自然エネルギー導入もさらに進め、そして、島外からの多様な知恵を取り込み、進化と変化を恐れない強い地域となっている、それが2030年の壱岐の姿です」(小川さん)

※Society5.0:狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0) に続く、AIやIoT、ロボットの活用によりさまざまな社会課題を解決する新たな社会のこと

壱岐市が目指す2030年の姿の説明図

先端技術で1次産業の魅力を高める

壱岐市がSDGsで掲げた目標を実現するには、「経済」「社会」「環境」の総合的な取り組みが必要だ。

「まず、『経済』については農業や水産業など1次産業に先端技術を導入することで、生産のすべての工程を見えるようにする『視える化』をし、効率化や廃棄ゼロを目指します。専門的な技術が次世代へと伝わり、後継者を育成することができます。そして生産性と収益力の向上を図り、1次産業の魅力を高めます」(小川さん)

「社会」への課題は少子高齢化や人口減少への対応だ。対話交流を盛んに行い、市民が主体となったまちづくりの推進をベースに、スマート農業やものづくりの視える化などをトータルで運用できる「IoT人材」を育成する。それにより島内外の人々の交流や島内に移住してくる人たちを増やしていくのだ。

「環境」については、離島ならではの課題がある。壱岐市の電力は本土と系統(発電・変電・送電・配電といった一連の仕組み)がつながっていないので、島内2カ所の内燃力発電所で発電している。

「デジタル化が進めばエネルギーは一層必要になるため、次世代エネルギーと省エネルギーについて市民の環境意識を高めていきます」(壱岐市役所の篠崎さん)

課題を解決するだけでなく島の強みをさらに活かしていく

先端技術を使ってアスパラガスを生産

壱岐市役所 企画振興部観光商工課
係長 篠崎道裕さん

壱岐市では「自治体SDGsモデル事業」のテーマとして商品作物としての価値が高いアスパラガスの生産、輸送、工程の視える化、販売、需要拡大について実証実験を行っていく。

農業に従事する人々が望んでいることは、耕作面積の拡大よりも、きちんと休暇を取り、仕事以外の趣味や子育て、地域交流の時間を確保することだと分かった。その解決策として、労働時間を削減するため、農業にIoTやAIを活用する企業、株式会社オプティムに協力してもらうことになった。

今回の実証実験では、農作地からリアルタイムに映像を転送しながら、若い世代に専門技術を伝承できる「遠隔作業支援サービス」、アスパラガスを栽培するハウスで水や肥料の量と散布のタイミングを正確に把握するための「ハウス情報管理サービス」などを運用する予定だ。

「まずは1軒のアスパラガス農家でモデルを作り、その成果を島内全域の生産者に広げながら、他の作物にも応用できればと考えています」(小川さん)

アイカメラで撮影した収穫の様子を見ながら、遠隔地の熟練農家がアドバイスする「遠隔作業支援サービス」
画像提供:オプティム

IoTやAIに強い人材を育成する

IoTやAIなど先端技術を導入すると、島内でもそれらの技術に関する専門知識を持つ人や、取り扱うことができるIT(Information Technology:情報技術)人材の育成が必要になる。市では2016年からの2年間、市民に向けウェブライターの養成講座やプログラマーの育成を行ってきた。壱岐市での移住生活を紹介するサイト「いきしまぐらし(https://ikishimagurashi.jp/)」を作成したのはこうして育成された主婦ライターたちで、今後はさまざまなサイトの作成や運営も担っていくことになる。

実は、島内のアスパラガス農家にはインターネット通販に挑戦しようとした生産者もいる。しかし、農作業の現場が忙しく手が回らなかった。小川さんは「それも島内外のIT人材が協力すれば実現できると思います。島全体で生産から販売までの一体化を実現し、付加価値を生み出していきます」と未来展望を語る。

このほか、農業従事者は作業が少なくなる時期があるため、民間企業が島内で設けたデータセンターなどのIT施設で働ける仕組みも検討している。

主婦などに向けたウェブライター養成講座
講座を受けたIT人材が市のサイト運営などを担う
画像提供:壱岐市

水素を活用して電気を作る

壱岐芦辺風力発電所 (画像提供:壱岐市)

壱岐市の再生可能エネルギーは太陽光発電と風力発電があるが全体の発電量に占める割合は5%と低い。さらに電力需要が低い時期には出力制限が行われるため、太陽光や風力で発電した電力が無駄になってしまう。

「検討し始めたのが水素の活用です。再生可能エネルギーを使って水素を製造します。水素は貯蔵、運搬ができるので、島内で必要な場所に水素発電の設備を設ければ、エネルギーとして活用できます。2019年から具体的な実験に着手します」と篠崎さんは展望を語る。

誰でも参加できる対話会を実施 若い世代と壱岐の未来をつなぐ

一般財団法人 壱岐みらい創りサイト
事務局長 篠原一生さん

壱岐市において、SDGsへの積極的な施策のベースとなっているのは、住民の対話から島の未来を描いていく「壱岐なみらい創りプロジェクト」だ。

市民が自主的に対話しながら地域を活性化することが必要だと感じていた壱岐市では、長年コミュニケーションを研究してきた富士ゼロックス株式会社との間で2015年10月に連携協定を締結し、プロジェクトを開始した。

高校生のアイデアも実現

2015年、2016年の2年間で10回の「みらい創り対話会」が開催され、のべ1,066人が参加した。対話会には年齢や性別、職業の制限がなく、島外からの参加も可能だ。

対話会を実施する壱岐みらい創りサイトの篠原一生さんは、「参加者に高校生が多いのが特徴ですね。島の未来について大人と一緒に話せることに関心をもった高校生が参加し、約半数を占めるようになりました」と対話会の特徴を説明する。

対話会では、壱岐市の魅力をさらに磨き、島内外へ発信するための方法が話し合われ、9つのテーマが発案された。そこで生まれた9つすべてのアイデアがすでに実現されている。参加した高校生からは「話し合った内容がどんどん具現化されていく。本当に壱岐が変わると思った」という意見も聞かれた。

また、壱岐の高校生と国内外の大学生が地域の産業創出のイノベーションに取り組む「イノベーションサマープログラム」は、壱岐の高校生にとってもよい刺激になっている。

「高校生たちは卒業後、島外へ進学・就職します。島にとどめるのではなく、島外に出て、スキルを身につけて、『これを壱岐で役立てたい』という思いをもって壱岐に戻ってくる。そのきっかけになればいい。そんな思いが込められています」(篠原さん)

島外企業を誘致して未来を描く環境を整備

プロジェクトとしては、ほかにも「壱岐テレワークセンター」を開設。提携する富士ゼロックス株式会社が地域創生営業部を置くとともに、現在7社の企業がこのオフィスで仕事をしている。島外からの企業を誘致できていることも、壱岐市の未来につながる施策を具体化するうえで重要な役割を果たしている。

テレワークセンターでは島外の人々も働く
多数の高校生も参加した対話会
島外の大学生と交流する「イノベーションサマープログラム」
画像提供:壱岐市

壱岐の事業を離島の活性化モデルとして発信

壱岐市では離島で生じるさまざまな課題への取り組みの成果を世界に発信していく考えだ。

企業や団体が持続可能な成長を実現するための枠組みづくりに取り組む国連グローバル・コンパクトの日本におけるネットワークの拠点がグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)だ。「壱岐市も企業誘致による島内経済の活性化を目指しているので、GCNJと思いが一致し、今回の連携が実現しました。今後は、GCNJの会員企業・団体に壱岐市のSDGsモデル事業について紹介していきたいです」(小川さん)

壱岐市では、取り組みを発信する中で、同様の課題を抱え、共通性のある事業に取り組む世界の都市や地域とも交流や相互学習を行っていく。

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