• サイエンスウィンドウのTwitter
  • サイエンスウィンドウのウェブコンテンツ
  • 宙(そら)と粒との出会いの物語
  • 科学と技術のおもしろさを伝える 子ども科学技術白書
  • 未来の共創に向けた社会との対話・協働の深化
  • サイエンスアゴラ
  • サイエンスポータル
  • サイエンス チャンネル

2019年冬号 (1-3月)

この号の目次へ戻る

[交わるアートとサイエンス]

デジタルとアナログのゆうごう
時空をえてよみがえるクローンぶんざい

デジタルとアナログの融合で時空を超えて甦るクローン文化財
ほうりゅうしゃさんぞんぞうこくほう)のさいげん
(写真ていきょう:東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん

歴史的・げいじゅつてきが高い「ぶんざい」の中にはれっそんから守るためにこうかいのものもある。
このように、きずつき失われるおそれもあるぶんざいさいげんし、せいさく当時によみがえらせる「クローンぶんざい」が生まれた。


ぞん」と「公開」というじゅん

ぶんざいは、からげんざいがれた人類のさんである。その中には、数百年、あるいは千年以上前につくられたものもあり、自然かんきょうによる風化、さいがいふんそうによるそんなど、れっそんしつのおそれがあるものも少なくない。

こうしたぶんざいを守るため、最もこう的な方法とはなにか。それはこうかいげんじゅうに「ぞん」することだ。しかし、そうなるとかんしょうむずかしくなり、多くの人がその文化的、じゅつを共有できなくなってしまう。このようにぶんざいには「ぞん」が必要な一方で、「公開」が求められるというじゅんがある。この問題をかいけつする方法としてぶんざいふくせいじゅつが開発され、「クローンぶんざい」がたんじょうした。

ぶんざいでん

デジタルじゅつと人の手によるでんとうじゅつゆうごうし、げんだいよみがえらせたクローンぶんざいは、オリジナルをぞんしてれっふせぎ、それでいて公開によって多くの人が作品をかんしょうできるようになる。

クローンぶんざいというめいしょうは、東京げいじゅつ大学COIシーオーアイCenterセンター ofオブ Innovationイノベーションきょてんふくせいプロジェクトにたずさわるみやさこまさあきさんが名付けたもので、春になるといっせいに花開くソメイヨシノに発想を得たという。さくらといえばソメイヨシノが世界的に知られるが、ソメイヨシノは全てが同じでんを持つクローンであるといわれている。そのため、で増やすのがいっぱんてきだ。

しかし、クローンだとしても、人々がソメイヨシノを美しいと感じる気持ちに変わりはない。クローンぶんざいにはソメイヨシノのように、ぶんざいが持つ歴史的はいけいげいじゅつ性などのでんがれ、どの時代でも多くの人に愛されるようにとの願いがめられている。

門外不出のこくほうを世界へ

東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてんがクローンぶんざいとしてさいげんしたもののひとつにほうりゅうしゃさんぞんぞうがある。ほうりゅうにはげんぞんする世界最古のもくぞうけんちくぐんである西さいいんらんがあり、日本初の世界さんにも登録されている。飛鳥時代につくられたしゃさんぞんぞうは、その中心に建つこんどうに安置される門外不出のこくほうで、日本ぶっきょうちょうこくにおける最高けっさくしょうされている。

ふくせいプロジェクトは、日本のほうともいえるしゃさんぞんぞうさいげんし、それがクローンぶんざいとなり、いつか世界へと旅立つことを願ってスタートした。

飛鳥時代の しゃさんぞんぞうせま

しゃさんぞんぞうさいげんにおいては、東京げいじゅつ大学が有するさいせんたんのデジタルじゅつと、げいじゅつ家のかんせいを生かしたアナログじゅつをもとに、やまたかおか市のでんとうものじゅつと、なんなみちょうこくじゅつをハイブリッドに使して進められた。

プロジェクトでは、しゃさんぞんぞうを同じざい、同じしつかんさいげんするのみならず、ちゅうそん(中央のぞう)の欠落したほつぶつぞうの丸まったかみ)、仏像背面の大きなだいこうはいしゅうえんにあったとされるてんふくげんし、じゅつ史の研究をまえて左右のきょうえてせいさくせいさく年代当時の姿すがたせまさいげんさくした。

クローンぶんざいは、こくほうを身近なそんざいにもする。かなあみしに正面からしか見られないオリジナルとはことなり、クローンならば2mのきょから、はいめんめいまでしっかり見ることができる。

オリジナルを ちょうえつする日本のでんとう文化

そもそもオリジナルのしゃさんぞんぞうこくほうであるため、けっそん部を付け足したりきょうを正しい位置にもどすなど、手を加えることは難しい。その点、クローンぶんざいは容易にしゅうせいを加えることがのうなので、せいさく当時の本来の姿すがたさいげんできる利点がある。

さらに、みやさこさんはつくられた当初のじょうたいまでもどし、クローンぶんざいよりもオリジナルに近い「スーパークローンぶんざい」を目指す。しゃさんぞんぞうでいえば、ふくげんしたクローンぞうを原型として3Dけいそくし、けいねん変化による付着物をのぞいたいちだんとシャープなぞうさいげんするという。そうすることで時代をさかのぼり、げんぞんするオリジナルをちょうえつする。そこにこそ、日本文化の原点があるとみやさこさんは語る。

「文化はヨーロッパからシルクロードを通り、村から村へ、その土地の文化が混ざり合いながら伝わりました。日本はそれを受け入れてほうし、さらにすぐれた文化をつくりあげました。ほうからスタートして、それを自国の文化につくりかえ、オリジナルをえてみせる。日本せいの車や時計がすぐれているのもそのためです。ちょうえつこそが日本の文化であり、クローンぶんざいもそのひとつといえます」

最終的には当時と同じアマルガムメッキをほどこし、がねいろかがやしゃさんぞんぞうに仕上げたいという。時空をえてよみがえる神々しいぞうを前に、飛鳥人がいだいたの念をも体感できるにちがいない。

しゃさんぞんぞうせいさくプロセス ~3Dデータからちゅうぞうまで~

計測した3Dデータ。背面部分はコンピューター上で復元
けいそくした3Dデータ。はいめん部分はコンピューター上でふくげん
写真ていきょう:東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん
3Dデータをもとに3Dプリンターで出力した樹脂製の原型
3Dデータをもとに3Dプリンターで出力したじゅせいの原型
写真ていきょう:東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん
鋳造されて表面加工をする前の釈迦三尊像
ちゅうぞうされて表面加工をする前のしゃさんぞんぞう
写真ていきょう:400年を えるたかおか市のものじゅつと600年をえるなん市のちょうこくじゅつを活用した地場産業かっせい化モデルのこうちくてんかい事業すいしん協議会
宮廻正明(みやさこ・まさあき)

宮廻正明(みやさこ・まさあき)
日本画家。東京げいじゅつ大学めいきょうじゅ。東京げいじゅつ大学発ベンチャー かぶしき会社IKIアイケーアイ代表とりしまりやく社長CEOシーイーオー。平成30年度文部科学大臣ひょうしょう「科学じゅつ賞(科学じゅつしんこう部門)」を受賞。東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてんにて「クローンぶんざい」プロジェクトにたずさわる。


進化したデジタルじゅつのうのう

樹脂型がた(左)にロウを流し込んで作ったロウ型(右)
Aじゅがた (左)にロウを流し込んで作ったロウ型(右)

飛天まで復元した大光背の3Dデータ
Bてんまで復元しただいこうはいの3Dデータ
計測途中の3Dデータ
Cけいそくちゅうの3Dデータ

しゃさんぞんぞうをデジタルでかす

みやさこさんらはしゃさんぞんぞうさいげんで、最初にこんどう内へデジタル機材を持ち込み、3DけいそくけいこうX線ぶんせき、高せいさい写真のさつえいなどを行った。こんどう内には他にもこくほうや重要ぶんざいがあるため、大きな機材はめない。しかも、一度では全体を撮影できないため、小型の機材を用いてさまざまな角度からさつえいが行われた。

重なった部分やかべに近いぞうの後ろ側は、機材がはいめずさつえいできないため、データの不足部分についてはちょうこく家がけいじょうすいそくしパソコン上でぞうを成形。そのデータをもとに3Dプリンターによってじゅせいの原型(じゅ型)を作成した。その後、じゅ型からつくったロウ型をもとにがたがつくられた。

デジタル じゅつにより広がるのう

デジタルじゅつによりクローンぶんざいという新たなを持つ作品を作り出したが、そこにはげいじゅつとしてのかんせいでんとうじゅつが欠かせない。

「デジタルじゅつげいじゅつが一体化することで新たなのう性が生まれました。たとえば、どうくつなど曲面に描かれた絵の写真からコンピューターで立体を再現しましたが、どうしてもズレやゆがみが生じてしまう。それをしゅうせいできるのがげいじゅつかんせいでありわざの力なのです。テロでかいされたバーミヤン東大仏ぶつがんてんじょうへき(アフガニスタン)も同様にふくげんしました。デジタルとアナログ、科学とげいじゅつゆうごうすることで、のうのうとなったのです」(みやさこさん)

さらに、東京げいじゅつ大学とくにんきょうじゅとうじゅんさんのコーディネートにより、やまたかおか市やなんなみしょくにんによるでんとうじゅつとのれんけいじつげんした。

げいだいにはげいじゅつに関するあらゆるじゅつが集まっていますが、その土地やじゅつにまつわるはいけいを持ちません。古くからのじゅつしょくにんたちといっしょになってつくることで、工芸産業により立国した1300年前と同じ"ストーリー"が生まれました」(とうさん)

写真ていきょう:東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん (写真C)、400年を えるたかおか市のものじゅつと600年をえるなん市のちょうこくじゅつを活用した地場産業かっせい化モデルのこうちくてんかい事業すいしん 協議会(写真AB


400年のでんとうじゅつで飛鳥のほうよみがえ


①大光背の鋳い型の湯口から1250℃の銅合金を流し込む
だいこうはいがたぐちから1250℃のどう合金をながし込む
② 大光背の鋳型はかなり重く、表裏はクレーンで運んで合わせた
だいこうはいがたはかなり重く、ひょうはクレーンで運んで合わせた
③ 大光背の銘は彫金の技法で一文字ずつ彫ほった
だいこうはいめいちょうきんほうで一文字ずつった
④3Dプリンターの積層痕は特注のヤスリなどで除去(東京藝大にて作業)
3Dプリンターのせきそうこんは特注のヤスリなどでじょきょ(東京げいだいにて作業)
⑤表面仕上げで作られた当時の姿に近づける(東京藝大にて作業)
表面仕上げで作られた当時の姿すがたに近づける(東京げいだいにて作業)
伝統工芸高岡銅器振興協同組合 理事長 梶原壽治さん
でんとう工芸たかおかどうしんこう協同組合
理事長 かじはらとしはるさん

ものしょくにんわざを集結

たかおかどうの歴史は400年以上前にさかのぼる。鉄器にはじまり、中期からはどうを使ったじゅつ・工芸で広く知られ、すぐれたちゅうぞうじゅつでんとうを今にぐ。どうせいさくは分業たいせいで成り立っていて、原型づくりからちゅうぞう、仕上げ、ちょうきんけん、着色など、それぞれのこうていしょくにんせんもんじゅつみがいてきた。

ちゅうぞうひとつとってもさまざまなほうがあり、でんとう工芸たかおかどうしんこう協同組合には約200の事業所がめいしている。つうじょうは事業所ごとにそれぞれ仕事を行うが、今回は5つの事業所がきょうどうし、関わったしょくにんの数は100を超える。それぞれのしょくにんが得意とするせんもんじゅつを合わせ、この大事業にいどんだのだ。

3Dプリンターによる原型の課題

たかおかどうにとっては、こくほうはもちろん、3Dプリンターの原型から何かをつくるのも初の試みだったという。新たなちょうせんで見えた課題について、理事長のかじはらとしはるさんは次のように語った。

「特別きょを得てしゃさんぞんぞうを間近に見る機会を得ましたが、かくにんしたかったのは『はだ』とばれるぞう表面のしつかんでした。原型と同じものをそのままどうえるのがちゅうぞうの仕事です。原型をみると3Dプリンター出力時にできるそうじょうせきそうこんがあり、オリジナルにないあとはだに残るのがかりだったのです。最終的にはしょくにんの手できれいに仕上げることができ、たかおかどうの仕事としてほこりになりました」

写真ていきょう:400年をえるたかおか市のものじゅつと600年をえるなん市のちょうこくじゅつを活用した地場産業かっせい化モデルのこうちくてんかい事業すいしん協議会()、東京 げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん

デジタルとアナログのゆうごうにより
ふくげんされた世界のクローンぶんざい


バーミヤン東大仏仏龕天井壁画(アフガニスタン)
バーミヤン東大仏ぶつがんてんじょうへき(アフガニスタン)
かいされたバーミヤン東大仏ぶつがんてんじょうへきあまかける太陽神」をふくげん。1970年代にさつえいされた写真と3Dデータをもとにぞうを合成し、げんすん大で作ったてんじょうに、てんじょうへきしつかんさいげんしたふくげんぞうり付けた。オリジナルではけっそんしていた顔部分や鳥、馬などもふくげんされている。
プリントした想定復元画像を天井壁に貼り付ける
プリントした想定ふくげんぞうてんじょうへきり付ける
「天翔太陽神」の想定復元図
あまかける太陽神」の想定ふくげん
敦煌莫高窟第57窟(中国・甘粛省)
とんこうばっこうくつ第57くつ(中国・かんせい省)
世界さんにも登録されているとんこうばっこうくつのうち、「美人くつ」として人気の第57くつふくげんした。へきぶつぞうはそれぞれ3Dけいそくによりデータ化。どうくつ内のおうとつまでさいげんした空間に、データから印刷したぞうり付けてへきを完成させた。かえしゅうふくされているぶつぞうは、げんの研究者たちと協力して、せいさく当時のけいじょうざいしつこうりょしてつくった。
笛を吹ふく少年
笛をく少年
エドゥアール・マネの「笛をく少年」を2次元の絵画から3次元化。油絵と同じサイズで立体化し、油絵の具でさいしょくした。側面やはいめんは時代はいけいにもとづいてそうさく。立体化することにより、れて楽しめる作品となった。
バベルの塔
バベルのとう
とうきょうじゅつ館「バベルのとうてんの関連かくとして、オリジナルをかくだいした3メートルをえる立体作品をせいさくとうけんちくげんで働く人やとうないの教会の様子など、ブリューゲルの世界の細部まで感じられるようになった。

※本ぞうは2次せいさく物です。
【原画】ピーテル・ブリューゲル1世「バベルのとう
1568年ごろ ボイマンスじゅつぞう
Museum Boijmans Van Beuningen, Rotterdam, the Netherlands

東京藝術げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん

産学官れんけいにより「感動」をそうぞうする

東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてんは、げいじゅつと科学じゅつぶんゆうごう、そして教育・りょうふく産業とのれんけいを目的とした産学官れんけいわくみ。文部科学省および科学じゅつしんこうこう(JST)の「かくしん的イノベーションそうしゅつプログラム(COI)」でさいたくされ、東京げいじゅつ大学をちゅうかく機関として発足した。

きょてんは、クローンぶんざいや共感覚メディアを研究対象とする「文化を育む」イノベーション、ロボットパフォーミングアーツの教育・ふく活用としょうがい者からげいじゅつれる感動を学ぶ「心を育む」イノベーションを柱に取り組む。さらに、産学官れんけいで生まれたコンテンツを、「きずなを育む」文化外交とアートビジネスで国内外にてんかいすることで、だれもがげいじゅつを楽しめる社会インフラをつくり、文化によりゆたかになる国を目指す。

写真ていきょう:東京げいじゅつ大学COIシーオーアイきょてん

この号の目次へ戻る

バックナンバー一覧へ