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[元気な地域のつくりかた]

長崎ながさき壱岐いき
島民みんなのアイデアで
ぎょう若者わかものも集まるゆたかな島へ

辰ノ島(画像提供:壱岐市)
たつしまぞうていきょう壱岐いき市)
長崎県壱岐市

長崎ながさき県のとう市は人口げんしょうや少子こうれい化、
1次産業の後継こうけい者不足などの課題に対して、
住民対話や島外の人々との交流をばんとした、
さまざまな取り組みを始めている。


後継こうけい者不足になやとう壱岐いき

長崎ながさき壱岐いき市は長崎ながさき県北部、日本海にかぶとうだ。福岡ふくおか市の博多港からアクセスがよく、高速船で約1時間、フェリーでも2時間ほどのきょに位置している。島の規模きぼは南北約17km、東西約15kmほどで平坦へいたんな土地が多いのがとくちょう。農業では肉用牛のいくさかんで、水産業ではマグロやウニ、イカなどの漁獲ぎょかく高が大きい。夏を中心とした観光業もさかんだ。

壱岐いき市では少子高齢こうれい化とともに人口げんしょうが進行している。国立社会しょう・人口問題研究所では、2018年3月31日げんざいで2万6857人の人口が2040年には1万8000人台にまでると推計すいけいする。

「島内にある2つの高校では約800人が学んでいますが、約9わりが進学や就職しゅうしょくで卒業後には島外へ出てしまいます。結果として、かん産業である1次産業では後継こうけい者不足が続いているのです」と市役所のがわかずのぶさんは深刻しんこくじょうきょうを語る。

出典:総務省「国勢調査報告」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」
出典:そう省「こくせい調ちょうほうこく」、国立社会しょう・人口問題研究所「日本のいきしょうらい推計すいけい人口(平成25年3月推計すいけい)」

目標を持っていき課題に取り組む

市ではこうしたじょうきょう改善かいぜんするために、産業のかっせい化やりょく発信、島外の人との交流をやすことなどを目指し、2015年に「市まち・ひと・しごと創生そうせい人口ビジョン・そうごうせんりゃく」を定めた。大きな目標は、2060年になっても1万8000人の人口をすることで、その対策たいさくとして島外からのじゅうえんや子育てえんといった人口げんしょうたいさく、農業・水産業などの産業振興しんこう方針ほうしんを打ち出したのだ。

また、2017年4月にいわゆる「有人こっきょうとう法」がこうされると、市は国からの交付金を活用することで九州本土への運賃うんちんを安くしたほか、そうにかかるコストのえん滞在たいざい型観光の浸透しんとうなどをあとししてきた。こうしたいきの課題への継続けいぞく的な取り組みはやがて、SDGs エスディージーズ未来都市としての選定へとつながっていく。

※SDGs(Sustainableサスティナブル Developmentディベロップメント Goalsゴールズ):国連の提唱ていしょうする「持続のうな開発目標」のことで、持続のうな世界をじつげんするための17のゴールと169のターゲットで構成こうせいされている

島内外の人々が対話を重ね、持続のうな開発目標に取り組む

壱岐市役所 小川和伸さん
壱岐いき市役所
がわかずのぶさん

SDGsエスディージーズ未来都市とモデル事業に選定

「これまで市が取り組んできたことをもっと加速するためにはどうしたらよいか。注目したのは、せいが地方自治体での推進すいしんあとししようとしていたSDGsでした」と小川さんはきっかけを語る。

内閣ないかく府ではSDGsに対してすぐれた提案ていあんをする「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」をしゅう市はこれまでの取り組みをベースに、経済けいざい、社会、かんきょうの3つの側面をじゅうした取り組みの計画を作成し、おうした。そして、2018年6月、「SDGs未来都市」(29都市)と「自治体SDGsモデル事業」(10都市)の両方に選ばれたのだ。とうの自治体から選ばれたのは市だけである。

2030年の壱岐いき姿すがたを考える

「SDGs未来都市」として市が2030年に実現する目標は、「き対話型社会『いき)なSocietyソサエティー5.0』」である。

は2000年前から海外との交易こうえきを続けてきたこっきょうの島だ。そして、今もなお、人々の対話を通して島外との交流を図っている。SDGs未来都市でも、人々が交流する機会をさらにやすことで実現じつげんする『対話型の社会』を目標としてかかげたのである。

「まず、IoTアイオーティーInternetインターネット ofオブ Thingsシングス:モノのインターネット)やAIエーアイArtificialアーティフィシャル Intelligenceインテリジェンス:人工知能ちのう)などのせんたんじゅつを取り入れて1次産業の課題をかいしょうします。また、生産した作物を自動運転でそうするEVイーブイElectricエレクトリック Vehicleビークル:電気自動車)の仕組みを作り、その仕組みを使って高齢こうれい者が島内を自由にどうできるようにすることも考えています。クリーンで持続のうな自然エネルギーどうにゅうもさらに進め、そして、島外からの多様なみ、進化と変化をおそれない強いいきとなっている、それが2030年の姿すがたです」(小川さん)

※Society5.0:しゅりょう社会(1.0)、農耕のうこう社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報じょうほう社会(4.0) に続く、AIやIoT、ロボットの活用によりさまざまな社会課題を解決かいけつする新たな社会のこと

せんたんじゅつで1次産業のりょくを高める

市がSDGsでかかげた目標を実現じつげんするには、「けいざい」「社会」「かんきょう」の総合そうごう的な取り組みが必要だ。

「まず、『けいざい』については農業や水産業など1次産業にせんたんじゅつどうにゅうすることで、生産のすべてのこうていを見えるようにする『える化』をし、効率化や廃棄ゼロを目指します。専門せんもん的なじゅつが次世代へと伝わり、こうけい者を育成することができます。そして生産せいしゅうえき力の向上を図り、1次産業のりょくを高めます」(小川さん)

「社会」への課題は少子高齢こうれい化や人口げんしょうへのたいおうだ。対話交流をさかんに行い、市民が主体となったまちづくりの推進すいしんをベースに、スマート農業やものづくりのえる化などをトータルで運用できる「IoT人材」を育成する。それにより島内外の人々の交流や島内にじゅうしてくる人たちをやしていくのだ。

環境かんきょう」については、とうならではの課題がある。壱岐市の電力は本土と系統けいとう(発電・変電・送電・配電といった一連の仕組み)がつながっていないので、島内2カ所の内燃ないねん力発電所で発電している。

「デジタル化が進めばエネルギーは一層いっそう必要になるため、次世代エネルギーと省エネルギーについて市民のかんきょうしきを高めていきます」(市役所の篠崎しのざきさん)

壱岐市が目指す2030年の姿

課題を解決かいけつするだけでなく島の強みをさらに活かしていく

壱岐市役所 篠崎道裕さん
市役所
しのざきみちひろさん

せんたんじゅつを使ってアスパラガスを生産

市では「自治体SDGsエスディージーズモデル事業」のテーマとして商品作物としてのが高いアスパラガスの生産、そう工程こうていえる化、販売はんばいじゅようかくだいについてじっしょう実験を行っていく。

農業にじゅうする人々が望んでいることは、耕作こうさく面積の拡大かくだいよりも、きちんときゅうを取り、仕事以外のしゅや子育て、いき交流の時間をかくすることだと分かった。そのかいけつさくとして、労働時間を削減さくげんするため、農業にIoTアイオーティーAIエーアイを活用するぎょうかぶしきかいしゃオプティムに協力してもらうことになった。

今回の実証じっしょう実験では、農作地からリアルタイムに映像えいぞうを転送しながら、わかい世代にせんもんじゅつを伝承できる「遠隔えんかく作業えんサービス」、アスパラガスを栽培さいばいするハウスで水やりょうの量とさんのタイミングを正確にあくするための「ハウスじょうほう管理サービス」などをうんようする予定だ。

「まずは1けんのアスパラガス農家でモデルを作り、その成果を島内全域ぜんいきの生産者に広げながら、他の作物にも応用おうようできればと考えています」(小川さん)

IoTやAIに強い人材を育成する

IoTやAIなどせんたんじゅつどうにゅうすると、島内でもそれらのじゅつに関するせんもんしきを持つ人や、あつかうことができるITアイティーInformationインフォメーション Technologyテクノロジーじょうほうじゅつ)人材の育成が必要になる。市では2016年からの2年間、市民に向けウェブライターの養成こうやプログラマーの育成を行ってきた。市でのじゅう生活をしょうかいするサイト「いきしまぐらし(https://ikishimagurashi.jp/)」を作成したのはこうして育成されたしゅライターたちで、今後はさまざまなサイトの作成や運営うんえいになっていくことになる。

実は、島内のアスパラガス農家にはインターネットつうはんちょうせんしようとした生産者もいる。しかし、農作業のげんいそがしく手が回らなかった。小川さんは「それも島内外のIT人材が協力すれば実現じつげんできると思います。島全体で生産からはんばいまでの一体化を実現じつげんし、付加を生み出していきます」と未来てんぼうを語る。

このほか、農業じゅうしゃは作業が少なくなる時期があるため、民間ぎょうが島内でもうけたデータセンターなどのITせつで働ける仕組みも検討けんとうしている。

アイカメラで撮影した収穫の様子を見ながら
遠隔地の熟練農家がアドバイスする「遠隔作業支援サービス」
アイカメラで撮影さつえいした収穫しゅうかくの様子を見ながら(上)遠隔えんかく地の熟練じゅくれん農家がアドバイスする(下)「遠隔えんかく作業えん サービス」(ぞうていきょう:オプティム)
主婦などに向けたウェブライター養成講座(画像提供:壱岐市)
しゅなどに向けたウェブライター養成こうぞうていきょう市)
講座を受けたIT人材が市のサイト運営などを担う(画像提供:壱岐市)
こうを受けたIT人材が市のサイト運営うんえいなどをになう(ぞうていきょう市)

すいを活用して電気を作る

市のさいせいのうエネルギーは太陽光発電と風力発電があるが全体の発電量にめる割合わりあいは5%と低い。さらに電力需要じゅようが低い時期には出力制限せいげんが行われるため、太陽光や風力で発電した電力が無駄むだになってしまう。

検討けんとうし始めたのがすいの活用です。さいせいのうエネルギーを使ってすい製造せいぞうします。すい貯蔵ちょぞう運搬うんぱんができるので、島内で必要な場所にすい発電のせつもうければ、エネルギーとして活用できます。2019年から具体的な実験に着手します」と篠崎しのざきさんは展望てんぼうを語る。

壱岐芦辺風力発電所(画像提供:壱い岐き市)
あし風力発電所(ぞうていきょう市)

だれでも参加できる対話会を実施じっし
わかい世代と壱岐いきの未来をつなぐ

壱岐みらい創りサイト 篠原一生さん
壱岐いきみらいづくりサイト
しのはらいっせいさん

市において、SDGsエスディージーズへの積極的なさくのベースとなっているのは、住民の対話から島の未来をえがいていく「なみらいづくりプロジェクト」だ。

市民が自主的に対話しながらいき活性かっせい化することが必要だと感じていた市では、長年コミュニケーションを研究してきた富士ふじゼロックスとの間で2015年10月に連携れんけい協定を締結ていけつし、プロジェクトを開始した。

高校生のアイデアも実現じつげん

2015年、2016年の2年間で10回の「みらいづくり対話会」が開催かいさいされ、のべ1,066人が参加した。対話会には年齢ねんれいせいべつしょくぎょう制限せいげんがなく、島外からの参加ものうだ。

対話会をじっするみらいづくりサイトのしのはらいっせいさんは、「参加者に高校生が多いのがとくちょうですね。島の未来について大人と一緒いっしょに話せることに関心をもった高校生が参加し、約半数をめるようになりました」と対話会の特徴を説明する。

対話会では、市のりょくをさらにみがき、島内外へ発信するための方法が話し合われ、9つのテーマが発案された。そこで生まれた9つすべてのアイデアがすでにじつげんされている。参加した高校生からは「話し合ったないようがどんどんげん化されていく。本当にが変わると思った」という意見も聞かれた。

また、の高校生と国内外の大学生がいきの産業そうしゅつのイノベーションに取り組む「イノベーションサマープログラム」は、の高校生にとってもよいげきになっている。

「高校生たちは卒業後、島外へ進学・しゅうしょくします。島にとどめるのではなく、島外に出て、スキルを身につけて、『これをで役立てたい』という思いをもってに戻ってくる。そのきっかけになればいい。そんな思いがめられています」(しのはらさん)

島外ぎょうゆうして未来をえがかんきょうせい

プロジェクトとしては、ほかにも「テレワークセンター」を開設かいせつ提携ていけいする富士ふじゼロックスがいきそうせいえいぎょう部を置くとともに、現在げんざい7社のぎょうがこのオフィスで仕事をしている。島外からのぎょうゆうできていることも、市の未来につながるさくを具体化するうえで重要な役割やくわりを果たしている。

テレワークセンターでは島外の人々も働く(画像提供:壱岐市)
テレワークセンターでは島外の人々も働く(ぞうていきょう市)
多数の高校生も参加した対話会(画像提供:壱岐市)
多数の高校生も参加した対話会(ぞうていきょう市)
島外の大学生と交流する「イノベーションサマープログラム」(画像提供:壱岐市)
島外の大学生と交流する「イノベーションサマープログラム」(ぞうていきょう市)

の事業をとう活性かっせい化モデルとして発信

市ではとうで生じるさまざまな課題への取り組みの成果を世界に発信していく考えだ。

ぎょう団体だんたいが持続のうな成長を実現じつげんするためのわくみづくりに取り組む国連グローバル・コンパクトの日本におけるネットワークの拠点きょてんがグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJジーシーエヌジェイ)だ。「市もぎょうゆうによる島内経済けいざいかっせい化を目指しているので、GCNJと思いがいっし、今回の連携れんけいじつげんしました。今後は、GCNJの会員ぎょう団体だんたい市のSDGsモデル事業についてしょうかいしていきたいです」(小川さん)

市では、取り組みを発信する中で、同様どうようの課題をかかえ、共通せいのある事業に取り組む世界の都市やいきとも交流やそう学習を行っていく。

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