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[元気な地域のつくりかた]

いわやままちしずおかはままつ市ほか
自立したいきげんを生み出すじゅつとは

鉄材とたん材を活用したようしょくじゅつが、さい地から日本各地へ、さらに海外へと広がりをみせている。
一つのじゅつが、どのように各地へとてんかいし、はってんしていったのか。
開発者のじまあきらさんに聞いた。


アオコのよくせいを目指して

池の水面が緑色になるアオコや、海面が赤色になるあかしおは、生活はいすいなどの流入により水中のちっやリンののうが高まり、これを利用する植物プランクトンがじょうえることがげんいんだ。植物プランクトンの一時的なきゅうぞうは、水中のさん不足を引き起こし、ようしょくしている貝や魚がめつしてしまう。たんせんを活用したすいしつじょうを研究していた小島さんは、この問題をかいけつしようと、げんいんの一つであるリンに注目した。

水中にけているリンと鉄が結び付くと、水にけないちんでん殿物となるため、水中のリンのうが下がる。ただし、鉄は水にひたしただけではけない。どうすれば鉄はけるか、と考えたとき、「鉄材とたん材をせっしょくさせて水にけると鉄はけることを思い出しました」。

そこで小島さんは鉄材のリサイクルぎょうと協力し、研究を開始。鉄材とたん材を組み合わせた「鉄デバイス」を開発した。アオコ発生になやんでいた池にせっしたところ、水中のリンのうは低下し、アオコは発生しなくなった。

鉄デバイス。麻袋の中に鉄材と炭素材、腐葉土を入れ、海中につり下げる(画像提供き/小島昭)
鉄デバイス。あさぶくろの中に鉄材とたん材、ようを入れ、海中につり下げる(ぞうていきょう/小島昭)

鉄デバイスの思わぬ効果

その後、このじゅつに注目したにいがた県からのようせいで、しまにあるに鉄デバイスをせっにいがた県は、ようしょくが盛んなあかしおによる漁業がいが発生していることになやんでいたのだ。いかだから鉄デバイスをつり下げたところ、あかしおの発生がおさえられただけでなく、思わぬこうが。ぷっくりと身のまったりょうしつしゅうりょうが増えたのである。

は植物プランクトンをえさに成長します。植物プランクトンのぞうしょくにはえいようとしての鉄が必要ですが、自然かんきょう中に多くはそんざいしていません。鉄デバイスにより鉄が安定的にきょうきゅうされたことで、が十分に育つだけの植物プランクトン量がかくされたと考えられます」。2010年のことである。

しんさいふっこうに役立てたい

2011年3月、ようしょくが盛んな三陸海岸が東日本だいしんさいなみによりじんだいがいを受けた。いかだなどようしょくせつが流され、ふっきゅうむずかしいじょうきょうを知った小島さんは、「鉄デバイスはようしょくこうけんできるじゅつしんさいふっこうに役立てられないかと科学じゅつしんこうこうJジェイSエスTティー)のマッチングプランナーに相談しました」。これをきっかけに、岩手県山田町の三陸やまだ漁業協同組合との共同研究が2012年10月に山田わんでスタートした。

短期間で良質の牡蠣を生産

ようしょくさんらん期(夏)にホタテのかいがらなどをちゃくらん材としてつり下げ、海水中にゆうするたまごを付着させる。それががいとなって、2~3年かけて成長させるのがいっぱん的だ。鉄デバイスをどうにゅうすれば、の成長がそくしんされ、しゅうかくまでの期間を短くできる。小島さんは毎月のように山田わんへ通い、地元の関係者とろんを交わし、鉄デバイスのざいけいじょうけんしょうを重ねた。「原理は同じでも、そのいきにあった工夫をしなければ、期待する成果は得られないことを学びました」

せっから2年後、しゅうかくしたじゅうらいよりもむき身重量が30パーセントし、うまみ成分であるグリコーゲンは70%ぞうであった。「『付加かちの高いができた』という事実は、自立への大きな一歩となりました」と小島さんはり返る。

しんさい以前よりもはってんしていくために

小島さんは同時に、鉄デバイスをおうようした付着りつの高いちゃくらん材の開発にも取り組んでいた。「山田わんでは、せっから3カ月で多くのがいの付着・成長をかくにんできました」。しんさい以前、山田町はがいをほかのいきから購入していた。自家生産したがいだけでまかなえるようになれば、山田町のさらなるはってんが期待できる。安定したがい生産じゅつかくりつするため、国内各地や海外でのけんしょう実験が続いている。

①共同研究スタート時の山田湾
共同研究スタート時の山田わん
②いかだから鉄デバイスをつり下げている様子
いかだから鉄デバイスをつり下げている様子
③2年後、引き上げた鉄デバイス
2年後、引き上げた鉄デバイス
④収穫した牡蠣。大きく育っていた
収穫しゅうかくした牡蠣かき。大きく育っていた

写真①〜④提供/小島昭

国内各地、そして中国へ

短期間で良質なの生産が期待できる鉄デバイスは、生産量をやしたい、ブランド化したいというなやみを持つようしょくいきの注目を浴びた。

同じく東日本だいしんさいで被害を受けたみやせんぬま市だけでなく、北海道はまなかちょうしずおかはままつ市、島根県きのしまくまもとみなまた市などでじっしょう実験が進んでいる。中でもみなまた市での取り組みは、くまもとしん(2016年)のふっこうえんにもこうけんしている。また、海をわたった中国のだいれんでも鉄デバイスのどうにゅうに向けた作業が進んでいる。

それぞれのいきじょうきょうおうじて鉄デバイスの構造などを変えているが、じゅつ的なけんしょうよりも大切なものがあると小島さんは言う。「そのいきにあった進め方をけんとうするには、地元関係者と顔を合わせて話し、相手のことをかいした上で、せいじつていあんを重ねていく必要があります。そうしてしんらい関係をきずくことができなければ、どんなにすぐれたじゅつでも、そのいきで生かすことはできません。じゅつは人によって育てられるものだと感じています」

海のない群馬県で開発された水質浄化技術は、佐渡島を皮切りに各地の水産業振興に役立っている
海のないぐん県で開発されたすいしつじょうじゅつは、しまを皮切りに各地の水産業振興しんこうに役立っている

いき全体をんだ活動へ

鉄デバイスのきゅうこうは、ようしょく業のはってんのみにとどまらない。しずおかはままつ市北区みっちょうでは、いき全体をみ、教育や産業しんこうといった多面的な活動へとてんかいされている。

鉄デバイスをせっしているいのはなのほとりにあるみっ中学校ではそうごう学習で、「ふるさとのためにできること」をテーマに20年後にゴールを定めてさまざまなプロジェクトを進めている。その中で、「ようしょくし特産化」を目指すチームのアドバイザーとして小島さんはかかわっている。「中学生らしいそう工夫をらし、鉄デバイスの活用に取り組んでくれています」。また、れたを地元のイベントでったり、オリジナルメニューを開発したりと、いきの新たなりょくそうしゅつにもこうけんしている。

設置した鉄デバイスの効果を確認する中学生たち。このいかだは地元市民と三ヶ日青年の家の協力によるもの
せっした鉄デバイスのこう確認かくにんする中学生たち。このいかだは地元市民とみっ青年の家の協力によるもの
アドバイザーの小島さんとともに猪鼻湖に設置した鉄デバイスの効果を、経過を追いながら確認
アドバイザーの小島さんとともにいのはなせっした鉄デバイスのこうを、けいを追いながら確認かくにん

きれいでゆたかないのはなを目指して

小島さんといのはなとのかかわりは2006年にさかのぼる。やアサリ、クルマエビなどの漁場だったいのはなだが、すいしつせんの問題を抱えていた。そこで、みっちょうの活性化を目指して活動する市民団体「わらの会」がすいしつじょうについて小島さんに相談したことがきっかけだ。当時、たん材を使ったすいしつじょうに取り組んでいた小島さんは、地元の名産ミカンの古木から作った炭を使う方法をていあんじょじょに成果が表れ、水のとうめい度が上がり、貝や魚などの生き物がえた。

2013年からは、鉄デバイスをどうにゅうし、ようしょくさいこうに取り組んだ。その中で、ちゃくらん材にアサリのがいも付着しているのを発見。げんざいは、アサリのぎょかくかいふくも目指して、さらにけんしょうを続けている。

「わらの会」メンバーと意見交換する小島さん
「わらの会」メンバーと意見こうかんする小島さん
猪鼻湖の着卵材に付着したアサリの貝
いのはなちゃくらん材に付着したアサリのがい

ゆたかな海をつくる」じゅつとして

いのはなでアサリのぎょかくかいふくのうせいが期待できたように、鉄デバイスのほんしつは、すいしつえいよう化をかいぜんするじゅつである。以外の水産業でも展開が可能だ。みやまつしまわんではかいそうが消えたふっかつしたり、北海道くしちょうではこんの生育量が増えひんしつも向上したりと、かいそうへのこうかくにんされた。

「鉄デバイスは、自然界にそんざいするたん材と鉄材を使い、ただ海中につり下げるだけの安全で持続的なじゅつです。100年後の未来にもゆたかな海を残すため、さらにこのじゅつを高め、各地へ広げていきたいと思います」と小島さんは語る。

「鉄デバイスは『海に森を創つくる』サプリメントとも言えます。SDGsエスディージーズ達成にも貢献し得る技術です」と小島さん(小島昭さん提供の画像を基に作成)
「鉄デバイスは『海に森をつくる』サプリメントとも言えます。SDGsエスディージーズ達成にも貢献こうけんし得る技術です」と小島さん(小島昭さんていきょう画像がぞうもとに作成)

確固たる目的をもったじゅつは、同じ課題をかかえる各地へてきようされ、その課題をかいけつするだけでなく、新たないきげんそうしゅつなどへのこうけんも期待できる。
技術者と地域の人とのかかわりを通して、技術が育まれ、技術者の手を離れたとき、そのじゅつは「自立したいきげん」へとなり得るであろう。

取材先:小島昭(こじま・あきら)
取材先:
小島昭(こじま・あきら)
1943年ぐんりゅう市生まれ。68年に群馬ぐんま大学工学部卒業後、群馬ぐんま工業高等専門せんもん学校に勤務きんむ。2016年より小島昭研究所理事長、前橋総合技術そうごうぎじゅつビジネス専門学校校長。専門は無機材料、複合ふくごう材料、環境かんきょう化学など。長年炭素たんそ材料の研究開発に取り組む。

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