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[元気な地域のつくりかた]

北海道帯広おびひろ市、ぐんひがしあがつままち
テクノロジーを上手に活用することで
酪農らくのうの仕事はもっと楽しくなる!

北海道帯広市、群馬県東吾妻町 テクノロジーを上手に活用することで酪農の仕事はもっと楽しくなる!
北海道帯広市、群馬県東吾妻町

酪農らくのうの仕事は重労働が多く、多くの牧場は後継こうけい者・働き手不足になやまされている。
そこで少しでも人のたんらそうと、帯広おびひろ市のベンチャー企業がIoTアイオーティーInternetインターネット ofオブ Thingsシングス:モノのインターネット)を活用したサービスを開発した。
ここでは現場げんばの声として、群馬ぐんま県の酪農らくのう家の話も聞いた。


しょうな牧場が日本のせいにゅう生産をささえる

日々のしょくたくでは、ぎゅうにゅうやバター、ヨーグルト、チーズなど、たくさんのにゅうせいひんが消費されている。原料となるぎゅうにゅうせいにゅう)の日本における生産量は年間約750万トンで、いくされているにゅうようぎゅうは、約135万頭におよぶ(平成28年農林水産省畜産ちくさん統計とうけい)。

最近では、えさやりからさくにゅうまですべて機械で行い、数百頭の牛を育てる会社形態けいたいの大規模きぼな牧場が増えているが、ぜんとして家族だけでけいえいするしょうな牧場がほとんど。その多くがこうけい者や働き手不足に悩まされている。

排卵はいらん前兆ぜんちょうのがさずタイミング良く人工授精じゅせい

牧場けいえいでは、効率こうりつ良くはんしょくさせることが重要だ。牛は、約280日間の妊娠にんしんて出産し、出産後280~300日間にわたってちちを出す(にゅう期)。らくのうげんでは、出産後2カ月くらいたったころに人工じゅせいをしてにゅう期を通して妊娠にんしんさせ、にゅう期の終了しゅうりょう後に2カ月程度のさくにゅうをしない期間(かんにゅう期)をて、ふたたび出産させさくにゅうできるようにする。らくのう業は、このようなサイクルをり返して成り立っている。

このサイクルを効率こうりつよく回すためには、はいらんの時期に合わせて人工じゅせいすることが必要だ。そのはいらんが近づいたことの兆候は、この時期特有の牛の身体・行動の変化から読み取れる。牛のはいらん周期は約21日で、一度その兆候をのがしてしまうと、次のはいらんまで約21日待たなければならず、結果的に出産がおくかんにゅう期が長くなる。さくにゅうできずにようするだけのこの約21日間はらくのう家にとってけいざいそんしつとなる。

はいらんが近づいたことの兆候を読み取る作業は、ほとんどがいまだに「人のけいけんかん」にたよっている。この兆候を読み取る作業をテクノロジーによって少しでも効率こうりつ化することを目的に、「Farmnoteファームノート」、「Farmnoteファームノート Colorカラー」は開発された。

群馬県の富澤牧場で取材当日に生まれた仔牛。出産した母牛は乳が出るようになり、間もなく排卵の前兆の観察を再開する。
ぐん県の富澤とみざわ牧場で取材当日に生まれたうし。出産した母牛はちちが出るようになり、間もなく排卵はいらんの前兆の観察をさいかいする。

らくのう家のニーズから生まれた
牛を管理するためのテクノロジー
取材先:株式会社かぶしきがいしゃファームノート

株式会社ファームノート デバイス開発マネージャー 阿部剛大さん
かぶしきがいしゃファームノート
デバイス開発マネージャー
こうだいさん

おびひろIアイTティーぎょうが開発した牛管理システム

北海道を代表するらくのう地帯・かちエリアに位置する帯広おびひろ市では8000頭以上の乳牛にゅうぎゅういくされている。

帯広おびひろ市に本社を置く株式会社かぶしきがいしゃファームノートは、「世界の農業ののうつくる」をビジョンに、IT(Informationインフォメーション Technologテクノロジーy:じょうほうじゅつ)を用いてはんざつな牧場の作業をサポートする。同社が開発した「Farmnoteファームノート」は、牛のさまざまなじょうほうを管理・記録・ぶんせきすることができるクラウド型牛群ぎゅうぐん管理システムで、PCピーシーだけでなくスマートフォンやタブレットでもそうのうだ。発売以来、現在げんざいまでに2500のらくのう家に導入され、25万頭以上の牛が管理されている。

さらに、牛の首に付けたセンサーではいらんの前兆となる牛の行動をキャッチするためのデバイス「Farmnoteファームノート Colorカラー」を開発。「Farmnote」と組み合わせて使うことで、牛の健康じょうたい、人工じゅせいてきしたタイミングなどが管理しやすくなる。

牛が装着し続けても劣化しにくいようベルトの素材・織り方まで工夫したデバイス「Farmnote Color」(画像提供:ファームノート)。
牛が装着そうちゃくし続けてもれっしにくいようベルトのざいり方まで工夫したデバイス「Farmnote Color」(ぞうていきょう:ファームノート)。
牛群管理システム
排卵の前兆、授精・分娩や搾乳量などの牛ごとの記録から牛群での管理まで行う「Farmnote」(画像提供:ファームノート)。
排卵はいらんの前兆、授精じゅせい分娩ぶんべんさくにゅう量などの牛ごとの記録から牛群ぎゅうぐんでの管理まで行う「Farmnote」(ぞうていきょう:ファームノート)。

酪農らくのう家とつねに話し合い、一緒いっしょつく っていく

「Farmnote Color」の開発を担当たんとうしたデバイス開発マネージャーのこうだいさんは、以前は東京のITけいぎょうで働いていた。それまでらくのうに関するしきは一切なかったが、まれきょうである帯広おびひろ市のためになる仕事がしたいとファームノートに入社した。

らくのう家が直面している後継こうけい者不足、仕事がつらいのが当たり前という問題を解決かいけつして、かっこういい仕事にするのがテクノロジーの役割やくわりです。私たちは農業とITの交差点で、両方のプロからのじょうほうをまとめることでこうけんしたいと考えています」(さん)

ファームノートには、ITのせんもん家はもちろん、じゅうかくを持つ社員もいる。それでもげんのことはげんにしかわからないと、アンバサダーとばれるらくのう家とごろから意見こうかんかえし、彼らのしっげきれいを原動力に、せいひんの改良や新のうの追加をじっしている。


牛の首に付けたセンサーで排卵はいらんの前兆をけん

「Farmnote Color」は、首に付けた加速度センサーでとらえた牛の動きの変化からはいらんが近づいた兆候を読み取り、スマートフォンなどに通知する。

はいらんを間近にひかえた時期にある牛は、しょう下部から出るホルモンのえいきょうでそわそわしてうろついたり、ほかの牛にちょっかいを出したりなど、一時的に活動量がえる。そのわずかな変化をとらえるのだが、たいによって活動パターンはことなるため、学習期間として7日間センサーをそうちゃくし、その間の活動量・はんすう時間などをAIエーアイArtificialアーティフィシャル Intelligenceインテリジェンス:人工のう)でかいせきする。

「さまざまなセンサーを組み合わせることでさらにせいを上げることもできますが、センサーがえればだんが高くなり、しょうリスクも上がります。あくまでも人間のサポート役として、シンプルに活動量がぞうしたしゅんかんを伝えるほうが良いと判断はんだんしました」(さん)

牛のはんしょくかぎらず酪農らくのうの仕事には人のけいけんかんたよる部分が大きいが、それらの一部でもセンサーにえることができれば、後継こうけい者不足やしん参入のむずかしさといった問題のかいけつにも貢献こうけんできるとさんは期待する。

牛たちとしっかり向き合うために新しいじゅつをどんどん取り入れる
取材先:とみざわ牧場

富澤牧場 富澤裕敏
富澤とみざわ牧場
富澤とみざわひろとしさん

子どものころから牧場の仕事に追われる両親を見てきたぐんひがしあがつままちとみざわ牧場のとみざわひろとしさんは「自分は絶対ぜったいにあんなにキツい仕事はしない」と決めていた。しかし、そんな働き方こそ変えなければいけないという思いから、24さいで牧場をいだ。

気付かなかった兆候をアラームで知った

とみざわ牧場は家族3人と外国人のう実習生2人という少人数経営けいえいだが、自動きゅう器とさくにゅうマシンをどうにゅうして作業たんらすことにより、にゅうようぎゅうの数を約100頭にまでやし規模きぼ拡大かくだいした。

そのころから排卵はいらんが近づいた兆候を知らせる「Farmnoteファームノート Colorカラー」にきょうはあったが、牛をつないでいくするタイストールとばれる方式に対応たいおうしていなかったため、とみざわ牧場ではどうにゅうできずにいた。「つながれている牛は動きがせいげんされてしまうので、行動量の変化をとらえることがむずかしく、開発に苦労した」とさんも語っていた。

らくのう家からの要望を受けて2018年6月に「Farmnote Color」にタイストールたいおうのうが追加されると、とみざわさんはさっそくどうにゅうを決めた。まだ使い始めてから数カ月だが、排卵はいらんが近づいた兆候ののがしは明らかにったという。

富澤牧場の牛の首に付けられた「Farmnote Color」。
富澤とみざわ牧場の牛の首に付けられた「Farmnote Color」。

「今も牛たちの様子には気を配っていますが、アラームが鳴って初めて兆候に気付いてじゅせいできたということもありました。おかげで、安心してほかの作業に集中でき、精神せいしん的なたんりました。最終的には人の目と耳を使って牛の様子を観察することが大切ですが、もう一つの目として『Farmnote Color』が役立っています」(とみざわさん)

以前はカレンダーに書き込こんで牛の繁殖を管理していたが、書き間違いなどのミスもあった。
以前はカレンダーにんで牛のはんしょくを管理していたが、書きちがいなどのミスもあった。
「Farmnote Color」ならば牛の目の前で記録できるので、書き間違えることもない。過去の記録から牛の体調管理にも役立てられる(グラフ提供:ファームノート)。
「Farmnote Color」ならば牛の目の前で記録できるので、書き間違えることもない。の記録から牛の体調管理にも役立てられる(グラフていきょう:ファームノート)。

テクノロジーを使う人のしきかいかくも必要

作業の効率こうりつ化のため、テクノロジーはどんどん取り入れていきたいというとみざわ さんだが、テクノロジー以前の「人の問題」とも日々直面している。

「親より上の世代からは『休んでいないでぎゅうしゃに牛の様子を見にいけ』と言われることもあり、じゅうらいしきをどう変えるかは課題です。ぎゃくに、機械にたよりきりで牛を見なくなってしまったらくのう家もいますし、もっと牛と向き合うためにこそ、新しいじゅつ と上手に付き合っていかないと」( とみざわさん)

牧場はがないと思っていたとみざわさんだが、じっさいにやってみて「牛の仕事は本当に面白い」と感じている。だからこそ「わかい世代が参入できるよう、大変な思いをしなくてもできるらくのうの形をかくりつしたい」と話す。そして、しょうらくのう家がかくとなった活気あるいきのあり方をさくするなど、らくのうしょうらいを考えて各地のらくのう家との意見こうかんなどにも積極的に取り組んでいる。

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