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2018 夏号 (7-9月)

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[乗りものが変わる、未来を変える]

どうしゅだんのイノベーションとは?

ANAホールディングス株式会社デジタル・デザイン・ラボ チーフディレクター 津田佳明(右)さん アバター・プログラム・ディレクター 深堀昂(左)さん
AエーNエヌAエーホールディングスかぶしきがいしゃデジタル・デザイン・ラボ
チーフディレクター よしあき(右)さん
アバター・プログラム・ディレクター ふかぼりあきら(左)さん

「航空会社『ANA』がえがく未来のビジョン」とは、どのようなものか。
多くの人は、「空の旅」を前提ぜん ていとした未来ぞうをイメージするだろう。
だが、ANAは「移動い どう」という概念がい ねんそのものを変えようとしている。
なぜ自らの強みにとらわれず、イノベーションの創出そう しゅついどむのか。
そして、実現じつ げんを目指す未来社会とは。


世界をつなげる「どこでもドア」

いま日本は「Societyソサエティ 5.0」という、ちょうスマート社会の実現じつ げんに向けて取り組んでいる。AエーIアイIアイoオーTティー、ロボットなどの革新かく しん的な科学技術ぎ じゅつや、社会のさまざまなデータを活用し、未来に向けて経済けい ざい発展はっ てんや社会課題の解決かい けつを目指そうというものだ。そのSociety 5.0の実現じつ げんに向けて、ANAは2016年4月に「デジタル・デザイン・ラボ」という新組織そ しきをたちあげた。エンジニアから客室乗務じょう む員までさまざまな業種の人が集まり、既存き そんの発想にとらわれず、未来志向し こう破壊は かい的イノベーションを起こすことが目的だ。すでにロケット開発やドローン運用、宇宙う ちゅう旅行など先進技術ぎ じゅつを活用してさまざまなことに取り組んでいる。そのひとつが、アバターをかいして「瞬間移動しゅん かん い どう」を実現じつ げんする『ANA AVATARアバター(アバター)』。人が実際じっ さい移動い どうしなくても時間や空間をえられる究極の移動手段い どう しゅ だんだ。

「ANAの経営けい えい理念には、次のような一節があります。『世界をつなぐ心のつばさ』。しかし、エアラインでつなげることのできる人は世界人口でたった6パーセントなのです。世界中の人をつなげるために、このプロジェクトではこれまでの概念がい ねんえた新しい移動手段い どう しゅ だんをつくろうとしています」とチーフディレクターの津田つ ださんは話す。

まず究極の移動手段い どう しゅ だんとして挙がったのが漫画まん が『ドラえもん』に出てくる「どこでもドア」のように遠くはなれた空間に瞬時しゅん じ移動い どうすること、つまり瞬間移動しゅん かん い どうだった。「飛行機で世界中にいけるようになったとはいえ、移動い どうには時間がかかり、つかれます。これをなんとか改善かい ぜんできないかとずっと考えていました」とアバター・プログラム・ディレクター深堀ふか ぼりさんはかえる。

せいがいねんくつがえ

実際じっ さいに人間が瞬間移動しゅん かん い どうすることは技術ぎ じゅつ的にかなりむずかしい。しかし、情報じょう ほうだけが瞬間しゅん かん的に移動い どうする量子テレポーテーションの地上実験の成功はすでに報告ほう こくされている。「体のテレポーテーションがむずかしいのであれば、 自分の意識い しき技能ぎ のう、感覚をテレポーテーションさせることはできないかという逆転ぎゃく てんの発想により、アバターによる移動い どうを思いつきました」と深堀ふか ぼりさんが続ける。自分の意識い しき技能ぎ のうはなれた場所にあるアバターに移動い どうさせる。アバターを遠隔操作えん かく そう さすると、あたかも自分自身がそこに存在そん ざいしているかのようにコミュニケーションをとったり、作業したりすることができるようになる。時間や距離きょ り、文化、年齢ねん れい、身体能力のう りょくなどさまざまな制限せい げんえて、自分の分身であるアバターが世界を自由に移動い どうするという、既成概念き せい がい ねんくつがえ移動手段い どう しゅ だんなのだ。

実際じっ さいにその場に行かなくてもできることはたくさんあるんです」と深堀ふか ぼりさんはいう。たとえば、遠隔医療えん かく い りょうや教育支援し えんなど。またロボットであれば人が行くことのできない災害現場さい がい げん ば放射線汚染地域ほう しゃ せん お せん ち いきも行くことができるので、災害対応さい がい たい おう可能性か のう せいが広がる。体が不自由でも走り回ることができるし、高齢こう れいになってもわかころと同等の技術ぎ じゅつをアバターで再現さい げんできる。居間い まにいながら、世界中の美術館び じゅつ かんを見て回るなど、新しい形の体験や旅行もできる。新しいサービスの創出そう しゅつや社会課題の解決かい けつなど、さまざまなアバター技術ぎ じゅつの活用が考えられている。

NA ホールディングス株式会社デジタル・デザインラボ 津田佳明(右)さん

世界中のせんたんじゅつを集結させる

ANAアバターは米国の非営利財団ひ えい り ざい だんであるXPRIZEエックスプライズ財団ざい だん主催しゅ さいする賞金レースのテーマに日本の企業き ぎょうとしては初めて採用さい ようされたプロジェクト。ANAがスポンサーになり、2018年3月から4年にわたるレースが始まった。高性能こう せい のうなアバターを開発するには、ロボット技術ぎ じゅつやものをさわったときの感覚(触覚しょっ かく)を伝えるセンサー技術ぎ じゅつ仮想現実か そう げん じつVRブイ アール)など多くの先端技術せん たん ぎ じゅつが必要だ。これらの技術ぎ じゅつ融合ゆう ごうし、実用化させるには数十年かかると予想されている。

国際こく さい的な賞金レースを開催かい さいし、世界的な関心を引き付けることで実現じつ げんまでの時間をちぢめたいと考えているのです。すでに世界中からエントリーが集まっています」と津田つ ださんは話す。

一方、ANAの専用せん ようアプリケーション「アバターイン」を使ってアバターをかいし、世界各地のさまざまなサービスを行う実証じっ しょう実験が始まっている。

AVATARの    イメージと基礎技術
注1:さつえいしたげんじつえいぞうに文字やぞうのデジタルじょうほうを重ね合わせてひょうするAエイRアールAugmentedオーグメンテッド Realityリアリティ=   かくちょうげんじつじゅつ
注2:対象物のかたさややわらかさ、動きをさいげんして伝えるハプティクス(しょっかくじゅつ)。
注3:ロボットの動きを研究し、せっけいせいさくするロボティクス。

アバターでリアルな体験

大分県と取り組むのは、竿ざおの動きや感触かん しょく遠隔えん かく地と同期させ、魚釣さかな つりをするというもの。竿ざおを動かすと大分県のぼり設置せっ ちされた竿ざおが動き、魚をることができる。った魚は後日とどけられ、自分がった魚を食べるというりの楽しみも再現さい げんされる。仮想現実か そう げん じつ(VR)によるり体験とはことなり、アバターをかいして体験しているのは現実げん じつの世界であり、リアルタイムの出来事。操作そう さした人には、まさに大分県へ旅行してりを体験したかのような思い出が残る。

また、アバターが配置されている側にいる人々ひと びとも、ただの機械ではなく、アバターを操作そう さしている人が「存在そん ざいしている」という感覚をいだくという。「この『存在そん ざい感』が人と人とのコミュニケーションを成立させる重要な要素よう そだと思います」と深堀ふか ぼりさん。教育現場げん ばでの実証じっ しょう実験でも、モニターから流れる講義映像こう ぎ えい ぞうではなく、生の講義こう ぎを聞いているように感じられるという。他にも、医療い りょう販売はん ばいなど、人との対話が良いサービスを提供てい きょうするのに欠かせない場面での実証じっ しょう実験が進んでいる。

ニーズにあったアバターを使って、さまざまなじっしょう実験を重ねている。じっさいのフィールドをかくするためには、ぎょうや研究者、地方自治体など多方面からの協力は欠かせない。

釣り体験の様子。釣り具メーカーや触覚センサー技術を持つ企業とも協力しあう
り体験の様子。り具メーカーやしょっかくセンサーじゅつを持つぎょうとも協力しあう
通信制高校とも連携し、アバターを活用した教育の形を模索している
通信せい高校ともれんけいし、アバターを活用した教育の形をさくしている

きょうそうで広がるのうせい

「アバターインはサービスのプラットフォームで、アバターをかいしてさまざまな社会のニーズと既存技術き そん ぎ じゅつをマッチングさせることができます。そのため、企業き ぎょうや研究者、地方自治体など多くの協力を得ることによってアバターの用途よう とが広がります。実証じっ しょう実験を積み重ね、あらゆる方面にアバターを実用化していきたい」と津田つ ださんたちは意欲い よくやしている。

時間や距離きょ りえた究極の移動い どうは、人々ひと びと距離きょ り一層いっ そう近づけ、社会とのつながりも深めるものだった。アバターは、わたしたちの未来をどのように変えるのだろうか。今後の行方が楽しみだ。

ニーズにあったアバターを使って、さまざまな実証実験を重ねている。実際のフィールドを確保するためには、企業や研究者、地方自治体など多方面からの協力は欠かせない。

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