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2018 夏号 (7-9月)

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[乗りものが変わる、未来を変える]

だれもがちゅうへ行ける時代がやってくる

誰もが宇宙へ行ける時代がやってくる

これまで、宇宙う ちゅうへ行くことができたのは、宇宙う ちゅう飛行士などのごくかぎられた人だけだった。
だが、だれもが宇宙う ちゅうへ行くことのできる時代が、すぐそこまで近づいている。
これを実現じつ げんしようとしているのは、日本の小さなベンチャー企業き ぎょう
独自どく じのエンジンを武器ぶ きに、スペースプレーンで宇宙う ちゅうを目指すPDピー ディー エアロスペースの緒川お がわ修治しゅう じさんに、日本の宇宙う ちゅうベンチャー企業き ぎょう挑戦ちょう せんについて聞いた。


2つののうを持つエンジンでスペースプレーンをじつげん

PDエアロスペースのスペースプレーン(宇宙う ちゅう飛行機)は、独自どく じエンジンの開発がかぎにぎる。
パルスデトネーションエンジンをベースとした「ジェット-ロケット燃焼ねん しょうモード切替きり かえエンジン」とはどのようなエンジンなのか。
また、このエンジンを搭載とう さいしたスペースプレーンは、どのような未来社会を実現じつ げんするのか。
新しいエンジンの技術ぎ じゅつ的な特長や開発上の課題などを聞いた。

ロケットとジェットを1つに

当社は、パルスデトネーションエンジンをベースとした「ジェット−ロケット燃焼ねん しょうモード切替きり かえエンジン」を開発しています。

燃焼ねん しょう」とは、物質ぶっ しつが光と熱をともないながらはげしく酸化さん かする現象げん しょうのことです。つまり酸素さん そが必要です。一般いっ ぱん的に宇宙う ちゅうへ行くための乗りものはロケットですが、宇宙う ちゅう空間には酸素さん そがありませんので、ロケットには燃料ねん りょうのほかに「酸化剤さん か ざい」を搭載とう  さいしているのです。ところがこの酸化剤さん か ざい非常ひ じょうに重いため、機体を軽くし宇宙う ちゅうへ行くコストをおさえるためには、搭載とう  さいする酸化剤さん か ざいの量をどれだけ少なくできるかという課題が生じます。そこでわたしは、空気中の酸素さん そをうまく使って飛ぶことができないか、と考えました。

空気を使って飛ぶエンジンには、飛行機に使われているジェットエンジンがありますが、ぎゃくに空気のない宇宙う ちゅう空間で使用することはできません。ということは、空気のある領域りょう いきではジェットエンジンのように、空気のない領域りょう いきではロケットエンジンのように機能き のうするエンジンがあればいい、と思いいたったのです。

ロケットエンジンとジェットエンジンの構造こう ぞうは全くことなりますが、単純たん じゅんつつ構造こう ぞうを持つパルスデトネーションエンジンをベースにすることで、2つの燃焼ねん しょうモードをえることに成功しました。現在げん ざいは、実用化に向けて、性能せい のう向上、大型化、耐久信頼性たい きゅう しん らい せいの向上に取り組んでいます。

ジェット−ロケット燃焼モード切り替えエンジンは、周囲の大気環境に応じて、2つの燃焼モードを切きり替える。
ジェット−ロケットねんしょうモードきりかえエンジンは、周囲の大気かんきょうおうじて、2つのねんしょうモードをえる。
画像提供/PDエアロスペース

5分間の「無重量」じょうたいを体験

ジェット−ロケット燃焼ねん しょうモード切替きり かえエンジンを搭載とう さいしたスペースプレーンが完成すれば、コストをおさえられるので、本当にだれもが行ける宇宙う ちゅう旅行を実現できます。

現在げん ざい、想定している宇宙う ちゅう旅行は次のようなものです。スペースプレーンは空港から離陸り りくし、まずはジェット燃焼ねん しょうモードで飛行します。高度15km付近まで上昇すると、空気がうすくなってくるので、ロケット燃焼ねん しょうモードへとえて高度50kmの高さまで上昇じょう しょうし、エンジンを停止します。このあたりから、地球の重力と、機体が宇宙う ちゅうへ向かって進む力が打ち消し合い、機内では体がプカプカかぶ「無重量状態じょう たい」を体験することができます。機体はそのまま慣性かん せい上昇じょう しょうを続け、高度100kmの「宇宙う ちゅうの入り口」まで到達とう たつした後、今度は地球の重力により落下を始めます。高度30kmあたりまで落下すると、次第に大気がくなってくるので、機内では空気抵抗てい こうによるブレーキが生じ、ぎゃくGジーによる重量を感じるようになります。その後、ふたたびエンジンを点火し、ジェット燃焼ねん しょうモードで飛行して空港に着陸します。全体で約90分、そのうち無重量状態じょう たいは約5分の飛行計画です。

この宇宙う ちゅう旅行を、ぜひ子どもたちに体験してほしいと考えています。地球の姿すがたを目の当たりにすることで、環境かん きょうに対する考え方や思いが変わるものと信じています。

宇宙旅行の飛行計画
ちゅう旅行の飛行計画
画像提供/PDエアロスペース

スペースプレーンがじつげんする未来

当社が開発しているスペースプレーンは、航空機のように同じ機体で何度も地球とちゅうを行き来することがのうです。その機体であれば、人だけでなく、太陽電池パネルをちゅうに運んでちゅう太陽光発電所をけんせつするなど、ぶっを安定的にちゅううんぱんできます。さらに、東京−ニューヨーク間の飛行もちゅう空間をけいすれば2時間ほどで結ぶことができます。スペースプレーンのじつげんは、さまざまなちゅう利用ののうせいを広げてくれるでしょう。

無重力は「重力」が無いじょうたいを言います。重力は、物体がそんざいする以上、どこへ行っても(ちゅう空間でも)そんざいします。「万有引力のほうそく」です。物体の重さときょで、重力の大きさが変わります。
無重量は「重量/重さ」が無いじょうたいを言います。重量が無いと、人も物もプカプカときます。人工えいせいこくさいちゅうステーションがいているのは、自身が地球の周りを高速で飛行することで遠心力が発生し、地球の重力といがとれ、無重量じょうたいになっているためです。

ちゅう飛行士にならなくてもちゅうへ行ける時代が来ている

日本の宇宙う ちゅう産業の市場規模き ぼは、宇宙う ちゅう利用をふくめて年間1.2兆円程度てい どで、内閣ない かく府は2030年代に現在げん ざいの2倍まで拡大かく だいさせる目標を設定せっ ていしている。
その中心的な役割やく わりになうと期待されているのが、宇宙う ちゅうベンチャー企業き ぎょうだ。
民間企業き ぎょう宇宙う ちゅうビジネスをリードする世界的な潮流ちょう りゅうの中、日本の宇宙う ちゅうベンチャー企業き ぎょう現状げん じょうとは。

海外のちゅうベンチャーぎょうはすでにほんかく

実は、だれもが宇宙う ちゅうへ行ける時代はすでに到来とう らいしています。例えば、これまでに国際宇宙こく さい う ちゅうステーション(IアイSエスSエス)に滞在たい ざいした民間人はべ7人にもおよびます。過酷か こくな訓練が必要な「宇宙う ちゅう飛行士」ではなく、一般人いっ ぱん じん宇宙う ちゅうへ行くことはすでに実現じつ げんしているのです。ただし、「だれもが」といっても1人当たり25億円の費用がかかります。しかし、ISSへの宇宙う ちゅう旅行とは飛行様式がことなるものですが、100分の1の2,500万円でできる宇宙う ちゅう旅行があったらどうでしょう。すでにアメリカではベンチャー企業き ぎょうがこの金額きん がく募集ぼ しゅうを開始し、2,000人をえる人が予約しているそうです。今後も費用はどんどん下がっていくでしょう。

ほかにも、スペースXエックスのように、火星探査たん さ構想こう そうを発表しているベンチャー企業き ぎょうもあります。海外の宇宙う ちゅうベンチャー企業き ぎょう特徴とく ちょうの一つは豊富ほう ふ資金し きん力です。ITアイ ティー企業き ぎょうなどでビジネスに成功した億万長者が、数百億円規模き ぼ資金し きんを使ったロケットなどの開発をさかんに行っているのです。

注目され始めた日本のベンチャーぎょう

海外と比較ひ かくすると、日本の宇宙う ちゅうベンチャー企業き ぎょう資金し きん面をふく規模き ぼの小ささが目立ちます。また、人材の流動せいやベンチャースピリッツといった精神せい しん面、法律ほう りつ規制き せいや実験できる土地の確保かく ほなど、そのほかにもさまざまな困難こん なんがあります。

しかし、困難こん なん環境かん きょうではあるものの、日本にも宇宙う ちゅういどむベンチャー企業き ぎょう次々つぎ つぎ誕生たん じょうしています。進出している分野は、ロケットなどを使う輸送ゆ そうけい衛星えい せいを打ち上げる衛星えい せいけい衛星えい せいから得られるさまざまな情報じょう ほうを利用するデータ利用けいの3つに大きく分けることができます。

日本の宇宙う ちゅうベンチャービジネスの流れが変わったのは2015年ごろで、ちょう小型衛星えい せいを開発するアクセルスペースが20億円規模き ぼ資金し きん調達に成功するなど、億単位で民間のお金が動き出しました。当社も、2016年にH.I.S.およびANAホールディングスと宇宙輸送う ちゅう ゆ そうの事業化に向けた資本提携し ほん てい けいを行い、開発を一段いち だんと加速することができました。

他の企業き ぎょうからの投資とう しは、その企業き ぎょう利益り えきの一部を使わせてもらうということです。株主かぶ ぬし企業き ぎょうの社員のみなさんから少しずつ「元気」を分けてもらっているようなものですから、その期待を裏切うら ぎることがないように開発にもいっそう力が入りますね。

2016年12月にH.I.S.およびANAホールディングスとの資本提携を発表した記者会見の様子。2018年には追加出資も発表された。(画像提供/PDエアロスペース)
2016年12月にH.I.S.およびANAホールディングスとのほんていけいを発表した記者会見の様子。2018年には追加しゅっも発表された。(画像提供/PDエアロスペース)

失敗をおそれずに、好きなことをやり続ける

緒川修治(おがわ・しゅうじ)

2023年の商業運航開始を目指す緒川お がわさんは、自らが歩んできた道を挫折ざ せつの連続だったとかえる。
ゆめに向かい続け、ゆめ実現じつ げんさせる原動力はどのようなものなのか。
あえて起業することを選択せん たくした理由とは。
将来しょう らいのビジョンと共にうかがった。

ちょうせんすることで、見える世界がある

実は、最初からスペースプレーンの開発を目指していたわけではありません。学生のころはパイロットを目指していました。パイロットの試験に失敗した後は、宇宙う ちゅう飛行士を目指しましたが、これも合格ごう かくできませんでした。そんなときに、アメリカのXPRIZEエックスプライズ財団ざい だん主催しゅ さいする賞金レースのことを知りました。課題は、有人で高度100km以上に2週間のうちに2度到達とう  たつさせること。しかも同じ機体を使って、というものです。成功させたのは、従業じゅう ぎょういん数が50人程度てい どのベンチャー企業き ぎょう。「選ばれて宇宙う ちゅうに行くのではなく、自分たちで行く時代なんだ」と感じました。それならば自分で起業して、以前から構想こう そうしていたジェット−ロケット燃焼ねん しょうモード切替きり かえエンジンの開発を始めよう、と思ったのです。

しかし、資金し きん的な課題をはじめとして、開発をスタートしてもうまくいかないことの連続で、ときには「やめときゃよかった」と思ったこともあります。ただ、たとえうまくいかなくても、試していない別の方法をやってみようという「えの早さ」が、ここまで続けてくることができた理由の一つだと思っています。

例えば、宇宙う ちゅう旅行の実現じつ げんを高さ100kmの地点とすると、現在げん ざいは5mほどの地点にいるようなものですが、たった5mでも見える世界が変わります。見える世界が変わるからこそ、次のステップに進めるのです。

日本、アジアの「スカンクワークス」を目指す

「スカンクワークス」とは、アメリカの航空機会社ロッキード・マーティンの特別研究開発部門の通称つう しょうです。かれらは、これまで世の中に存在そん ざいしなかった独創どく そう的な技術ぎ じゅつや機体を数多く生み出してきました。

当社の目標は、一般いっ ぱんの人が宇宙う ちゅうに旅行できるくらい、宇宙輸送技術う ちゅう ゆ そう ぎ じゅつ発展はっ てんさせること。そしてこの技術ぎ じゅつを「エネルギーと資源し げん宇宙う ちゅうから調達すること」につなげていきたいと考えています。しかし最終的な目標は、スカンクワークスのように、航空宇宙う ちゅう分野で、不可能ふ か のう可能か のうに、何も無いところ(ゼロ)から1を生み出せるイノベーション集団しゅう だんになっていきたいと思っています。

ベンチャー企業き ぎょうは自分の思うように進められる一方で、資金し きん、人材、規制き せいなど、戦いの連続でもあります。皆さんも、本当にやりたいことがあるのなら、失敗をおそれず挑戦ちょう せんをやめないことです。困難こん なんがたくさん出てきても、答えや道は必ずあります。見つからなければ作ってしまえばいいのです。自分自身との戦いといえます。ぼくらも戦い続けます。

好きな言葉は「戦え」。目の前に壁が現れても、諦めずに挑戦し続けることで、次の道が開けてくると信じています。
好きな言葉は「戦え」。目の前にかべあらわれても、あきらめずにちょうせんし続けることで、次の道が開けてくると信じています。
日本、アジアの「スカンクワークス」を目指す

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