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2018 夏号 (7-9月)

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[乗りものが変わる、未来を変える]

自動運転によって生み出される新しい社会

未来社会の交通システムでは、車両の自動化技術ぎ じゅつ情報じょう ほう技術ぎ じゅつ不可欠ふ か けつになる。
自動運転により人やモノの移動い どうが自動になるだけでなく、移動い どうするサービスと街のモニタリングを同時に行うなど、あらゆるモノやサービスがつながり、新しい価値かち創造そうぞうする。 「シナジックモビリティ」はそんな社会の実現じつげんを目指す考え方だ。


いまやインターネット技術ぎ じゅつは私たちの生活と切ってもはなせないものとなっている。パソコンやスマートフォン(スマホ)などを使えば、家族や友人とのコミュニケーション、音楽や動画の視聴し ちょう情報じょう ほう検索けんさく、買い物、出前の依頼い らいなど、さまざまなサービスを利用することができる。

スマホは技術ぎ じゅつすぐれているだけでなく、多種多様な事業者がサービスを提供できるようにしたことがヒットにつながった。スマホの便利さはサ―ビスを提供てい きょうする多くの企業き ぎょうが参画し、利用者との間をつなぐ土台となる環境かん きょう、プラットフォームがあるからこそ実現じつげんしているのだ。

昨今はモビリティ(移動い どう)の世界でもプラットフォームの重要せい指摘し てきされている。

車はカーナビゲーションシステムなどからの情報じょう ほうを得られるほか、ETCイーティーシー(電子料金収受しゅう じゅシステム)などのITSアイティーエスIntelligentインテリジェント Transportトランスポート Systemシステム :高度道路交通システム)との連携れんけいが進んでいるものの、車からの情報じょう ほう発信は限定げんてい的で、プラットフォームが整備せい びされているとはいえない。しかし、これから自動運転が普及ふきゅうしていけば、そう方向ほうこうでのデータのやりとりが不可欠ふ か けつになる。例えば自動運転バスならば、安全で効率こうりつ的な運行のために管制かんせいシステムとつながる必要があるし、そのバスで荷物も運ぼうと思えば物流管理システムにも接続せつぞくしなければならない。

このように人やモノの流れ、サービスのかたが大きく変わり、車は一方的に情報じょう ほうを受け取る立場から、プラットフォームの一つとして情報じょう ほうを受発信する立場に変わっていく。

そうなれば、車から発信される情報じょう ほうも大きな価値かちを持つ。車の実走行データを地図に重ねると、リアルタイムで通れる道、通れない道が分かるので、災害さいがいや工事などで通行止めが発生したさいに便利なうえ、平常へい じょう時も道路や周辺状況じょうきょう把握は あくに役立つ。個々ここの車を情報じょう ほうみなもとに見立てたサービスはほかにも考えられそうだ。

名古屋大学未来社会創造そうぞうこう教授きょう じゅの河口信夫さんがける『シナジックモビリティ(Synergic Mobility)』は自動運転を通じてさまざまなサービスを融合ゆうごうさせることで、人・モノ・サービスの移動い どうと街のモニタリングを同時に行うシステム。国立研究開発法人科学技術ぎ じゅつ振興しんこう機構き こうJSTジェイエスティー)未来社会創造そうぞう事業の探索たんさく加速型「ちょうスマート社会の実現じつげん領域りょう いきにも採択さいたくされており、多数の企業き ぎょう行政ぎょう せい機関と連携れんけいしながら研究開発を推進すいしんしている。

「シナジックとはシナジー、相乗効果こう かのあるという意味です。これからの日本は少子高齢こうれい化によって労働力が低下していきます。さまざまなサービスが自動運転を通じて融合ゆうごうすることで相乗効果こう かが生まれ、サービスのちょう効率こうりつ化とコストダウンが可能か のうになると考えています」(河口さん)

これまでバラバラになっていたサービスが『シナジックモビリティ』というプラットフォームに集まることで生まれる新しい世界。その中身を次のページから解説かいせつしていこう。


人々の需要じゅようとサービスの供給きょうきゅうをうまく組み合わせる

日々の生活の中には、どうしても決まった時刻じ こくまでに目的地に行きたい日もあれば、のんびり風景を楽しみながら移動い どうする日もあるだろう。
シナジックモビリティはそんなさまざまな場面に対して、人々の需要じゅようとサービスの供給きょうきゅうのマッチングを図れるプラットフォームを目指している。


少子高齢こうれい化と人口減少げん しょうが進む日本。過疎かそ地域ち いきでは赤字のバス路線が廃止はい しになり、物流や郵便ゆうびん取扱とり あつかい量もって運営うんえいきびしい状況じょうきょうである。バスに荷物もせられるとよいが、現在げんざいの法律では人間を乗せる車とモノを運ぶ車は区分がちがい、同じ車で運ぶには特別な許可きょ かが必要になる。これからは規制き せい緩和かん わも視野に、移動い どう効率こうりつ化を考えていくことになるだろう。

ただし、移動い どうには多種多様なニーズ(需要じゅよう)がある。単に移動い どうできればよいというケースは皆無かいむに等しく、利用者側には例えば「9時までに着きたい」「1円でも安く運びたい」「冷蔵れいぞう便で送りたい」などの条件じょう けんがあり、車側も「この時間帯は満載まんさい」「このルートは荷室に空きがある」などの事情じじょうがある。

河口さんはこれらの情報じょう ほうが業界や企業き ぎょうかべえて共有されていないことに着目。人が「移動いどうしたい」、モノを「移動い どうさせたい」、サービスを「受けたい」、実世界を「調べたい」などのさまざまな需要じゅように対して、多様なサービスやデータの供給きょうきゅう適切てきせつにマッチングさせたいと考える。その実現じつげんのために自動運転車をかくとする『シナジックモビリティ』を提案ていあんしている。河口さんは「人の移動い どうや物流、エンターテインメントなど、複数ふくすうのサービスを同時に車内で展開てんかいできれば、そこにシナジーが生まれ、一層いっそう効率こうりつ化が可能か のう」だという。

ひとつのモデルとして考えているのが多様なサービスを実装じっそうできるサービスカーだ。特徴とく ちょうは多数のモジュールを積載せきさいする荷室。モジュールは荷物ケースのイメージで、野菜や書籍しょせきなどの商品を入れられるほか、クリーニングボックスなどのサービスも混載こんさいできる。これらを一度に移動い どうさせれば効率こうりつ化を図ることが可能か のうになるだろう。

さまざまなニーズに応えるサービスカー 自動運転を核としたサービスカーは人やモノの移動に使えることはもちろん、移動図書館や移動販売車のようにモジュール化した各種サービスを載せ替えてどこにでも運ぶことができる。複数のモジュールを積載することも可能だ。
さまざまなニーズにこたえるサービスカー
自動運転をかくとしたサービスカーは人やモノのどうに使えることはもちろん、どう図書館や移動販売車のようにモジュール化した各種サービスをえてどこにでも運ぶことができる。複数ふくすうのモジュールを積載せきさいすることものうだ。

シナジックモビリティ実現じつげんにおいては、いくつかのかくとなる技術ぎ じゅつがある。そのひとつが通信管理システムと、多数のサブシステムからなる「Systemシステム ofオブ SystemsシステムズSoSエスオーエス)」。SoSは本来バラバラに設計せっけい・運用されているシステムを個々ここに運用・管理しつつ必要におうじて組み合わせることで、単一システムではできない複合ふくごう的な効果こう かを得られる。河口さんらは、異種い しゅ産業間のシナジー効果こう か検証けん しょうするシミュレータを構築こうちくし、需要じゅようや車両台数などをいろいろ想定しながら研究を進めている。


走行中に得られたデータを安全やマーケティングなどに活用

自動運転車の走行中に得られる各種データからいろいろなことが分かる。
実走行データはリアルタイムの地図情報じょうほうに、ワイパーの稼働かどうデータは気象予報よほうにそれぞれ役立つという。
なかでも道路のひびれや凹凸おうとつなどを調べるモニタリングは市場せいが期待されている。


アスファルト舗装ほ そうの道路は劣化れっ か摩耗ま もうけられない。普通ふ つう車でも1トン以上、ときには20トンちょうのトラックも走行するため、日々ダメージを受けているのだ。損傷そんしょうは安全運転のさまたげになり、わだちにたまった雨水でハイドロプレーニング現象げんしょうが起きれば、大事故じこを引き起こしかねない。そのため道路は定期的な修繕しゅうぜんが必要となる。

日本の道路の総延長そうえんちょうは約128万kmキロメートル(平成28年4月1日現在げんざい、道路統計とうけい年報ねんぽう2017より)あり、修繕しゅうぜん優先ゆうせん順位をつけるために、専用せんよう車両でアスファルトのひびれ、わだちれの度合い、平坦へいたんせい計測けいそくする路面性状せいじょう調査ちょうさを行っている。早期に対応たいおうできれば修繕しゅうぜん費をおさえられるが、河口さんは「8わり点検てんけん不良」と指摘してきする。

専用せんよう車両を使った調査には1kmあたり20万円が必要。もしも一般いっぱん車両の走行データからおおよその路面状況じょう きょうが分かれば、専用せんよう車両で調査ちょうさすべき場所をしぼめて、修繕しゅうぜん箇所かしょの早期発見につながり、コストをおさえられます」

低コストでインフラ点検 人・モノ・サービスの移動を目的に走行するサービスカーが、走りながらインフラ点検や地図データ取得をすることで専用車両よりも低いコストで、問題箇所を早期発見できる。
低コストでインフラ点検てんけん>
人・モノ・サービスのどうを目的に走行するサービスカーが、走りながらインフラ点検てんけんや地図データ取得をすることで専用せんよう車両よりも低いコストで、問題しょを早期発見できる。

河口さんらは専用せんよう車両と自動運転車を使って走行実験を行った。自動運転車にはLiDAR(ライダー、Lightライト Detectionディテクション andアンド Rangingランギング)という、周囲の物体との距離きょりをレーザー光で計測けいそくする装置そう ち搭載とうさい。その計測値けい そく ちから得られた点の集合データから地図を生成し、地図のなかでも道路部分だけを切り取ると、路面の凸凹おうとつの様子が分かるという仕組みになっている。

自動運転車で走行しながらLiDARで得た路面状況データ。
自動運転車で走行しながらLiDARで得た路面状況じょうきょうデータ。

専用せんよう車両と自動運転車の計測けいそくデータを比較ひかくしたところ、自動運転車でも予備調査ちょう さで有効なデータが得られることが分かった。将来的には多数の自動運転車のデータを集約し、『シナジックモビリティ』を通して道路の調査ちょう さ会社に提供ていきょうすることも考えられる。だからといって調査ちょう さだけを目的に自動運転車を走らせるのではなく、車は普段ふ だん通りに移動い どうするだけ。その移動で得たデータを提供ていきょうする。需給じゅきゅうマッチングはシナジックモビリティのプラットフォームで行う。

需要を満たすサービスカーの台数などをシミュレーションする地図画面。
需要じゅようを満たすサービスカーの台数などをシミュレーションする地図画面。

道路以外に、電柱やガードレールなどのインフラの調査ちょう さにも可能性か のう せいがある。シナジックモビリティではこれを「実世界データによる価値かち創造そうぞう技術ぎじゅつ」と位置づけ、さまざまなソフトウェア同士を連携れんけいさせられるAPIエーピーアイApplicationアプリケーション Programmingプログラミング Interfaceインターフェース)という仕組みを通じて、多様なサービス事業者が自動運転車のデータを利用可能か のうにできるように研究開発を進めている。

※ハイドロプレーニング現象げんしょう 路面とタイヤとの間にすいまくができることによって車体がいた状態じょうたい になり、ハンドルやブレーキがコントロールできなくなる 現象 げんしょう

いろいろな事業者が集うからこそゆたかなサービスが生まれる

自動運転車を中心にさまざまな事業者がじょうほうじゅつでつながることにより、新しい価値かち創造そうぞうされる――
そんな『シナジックモビリティ』のえがく世界が実現じつげんするとき、わたしたちの生活はどのように変わるのだろうか。


たしかに自動運転車は移動い どうに便利で、道路の凹凸おうとつ状況じょう きょうといったインフラ調査ちょう さなどによって安全な社会になるのならば人々にとって大変ありがたいことだ。とはいえ、車両開発や通信環境かんきょう整備せい びには多額た がく投資とう しが必要なため、普通ふ つうの人にはとても手が出せないくらい車が高価こう かなものになる、またはサービス料金がとても高くなるといったことが起きないのだろうか。

ところが、河口さんによれば「移動い どうサービスは価格か かくが安くなる方向に進む」のだという。わたしたちが日常にちじょう的に使うスマホでも、企業き ぎょうの広告を見ることでさまざまな無料アプリを利用することができている。自動運転の車内でも同じ仕組みが考えられるらしい。

車載しゃさいカメラや配車予約アプリなどを通して、利用者の年齢ねんれい性別せいべつ、活動エリアなどが分かりますから、企業き ぎょうにとっては格好かっこうのマーケティングの場になります。たとえば、車内でサンプリング商品を受け取り、アンケートに協力する代わりに移動い どう費用を負担ふたんしてもらう、という仕組みが成り立つと考えられます」

今後はシステム開発のほかに、そのシステムがどのように社会に受け入れられるか、また、既存きそんサービスとどのように連携れんけいできるかが課題となる。例えば、高齢こうれい者にとって自動運転車が便利だとしても、新しい仕組みを取り入れるには時間がかかるかもしれない。また、バスやタクシーといった既存き そんの交通事業者がシナジックモビリティを歓迎かんげいせず、参画をこば可能性か のう せいもある。そうならないように、河口さんはイベントやウェブサイトなどを通してていねいに情報じょうほう発信している。

「こういったサービスは一部企業き ぎょう独占どくせんするよりも、数多くの企業き ぎょうが入る方がゆたかになるんです。しかし、自動運転車を利用したいユーザーと事業者を直接ちょくせつマッチングさせるだけでは競合となる事業者同士が価格競争をするばかりで、シナジーによる付加価値かちが生まれにくい。そこでシナジックモビリティでは、サービスを提供ていきょうする側と受ける側の間に、サービスを運用するプラットフォームを構築こうちくし、さらに需給じゅきゅうをマッチングさせるマーケットを作り出そうとしています。その仕組みの上でそれぞれの企業きぎょうが新たな連携れんけい可能性か のう せい模索も さくし、工夫を重ねるからこそ、個性こ せい的な商品やサービス、シナジーが生まれるのです」

「シェアからシナジーへ」をかかげるシナジックモビリティ。多様な事業者が参画するプラットフォームを構築こうちくすることで、共創きょうそうによる新しい社会づくりを推進すいしんしている。

シナジックモビリティの概念図
シナジックモビリティの概念がいねん
移動いどう、サービス、実データ取得といったさまざまな要素ようそたがいにつながり合い、より良い社会を構築こうちくしていく。それらをつなぐための技術ぎじゅつだけでなく、ユーザーと事業者双方そうほうにとってメリットのある仕組みづくりにも取り組む。
画像がぞう提供:名古屋大学 河口教授)

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