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2018 夏号 (7-9月)

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[乗りものが変わる、未来を変える]

人のらしを変える自動運転じゅつ

人の暮らしを変える自動運転技術

自動車は、人々のらしをゆたかにする乗りものだ。
だが一方で、交通事故じこ渋滞じゅう たいなどさまざまな問題がつきまとう。
そのような問題をかいしょうし新たな価値かち創造そうぞうするため、世界中で「自動運転」の研究が進められている。
自動運転が実現じつげんしたとき、交通やらしはどのように変わるのか。
日産自動車とディー・エヌ・エー(DeNA)の共同開発にせまった。


自動運転を実用化して道路交通の課題をかいけつ

自動車を取りまく数々の課題をかいけつするひとつの方法として技術ぎ じゅつ革新かくしんが進む「自動運転」に注目が集まっている。
完全自動運転の実現じつげんに向け、開発は着実に前進している。

通信じゅつにより道路交通を高度化

安全かつゆたかな道路交通を実現じつげんするための取り組みとして、日本では1990年代からITSアイティーエスIntelligentインテリジェント Transportトランスポート Systemsシステム:高度道路交通システム)を推進すいしんしてきた。ITSとは通信技術ぎ じゅつを活用して人・自動車・道路の間で情報じょう ほうをやりとりするシステムで、事故じこ渋滞じゅう たい環境かんきょう対策たいさくなど、道路交通におけるさまざまな課題を解決かいけつしようというものだ。

カーナビゲーションシステムやETCイーティーシー(電子料金収受しゅう じゅシステム)のほか、バスの運行状況をリアルタイムで知らせるシステムなど、すでに広く普及しているものもたくさんある。自動運転もまた、ITSのシステムのひとつなのだ。

自動運転で社会課題をかいしょう

自動運転とは、 人間が操作そうさしなくても自動車が“自動で走行”すること。最近の自動車には危険き けんを察知して自動でブレーキがかかるシステムが搭載とうさいされているが、目指しているのは、ドライバーなしでも走行できる“完全な自動運転”だ。

交通事故じこのほとんどは、ドライバーの運転操作そう さミス、判断はんだんミス、不注意といった人為じん い要因よういんだと言われている。ドライバーが必要ないということは、こうした人のミスが原因げんいん事故じこ危険性き けん せいが低くなることを意味する。ほかにも、自動運転ならば安定して円滑えんかつな運転ができるため、渋滞じゅう たい緩和かん わにもつながる。

また、昨今はバスやトラックのドライバー不足が社会課題になっているが、完全な自動運転が実現じつげんすれば、ドライバーがいなくても人の移動い どうやモノの運搬うんぱんが可能になり、高齢こうれい者やしょうがいを持つ人々、免許めんきょを持たない子どもたちも自由に移動いどうができるようになる。

自動運転の実用化に向けて

しかし、すべてのそうを完全に自動化できるほど技術ぎじゅつが高度化しても、絶対ぜったいに安全な自動運転とはいえない。人的ミスはゼロでも、機械にはしょうが起こり得る。走行中に突然とつぜん動かなくなったり、勝手にちがう場所へ行ったりしないように設計せっけいする必要がある。また、万が一事故じこなどが発生したときを想定した対処たいしょ法もせいしなければいけない。

さらに、自動運転車が走行することを前提ぜんていとした道路や法律ほうりつなど、周辺かんきょうせいけつとなる。実際じっさいげんざいの道路交通法では、公道を運行する車両には「運転者がいなければならない」と明記されている。

しかし、日本国内では決められたいきかぎって、自動運転の公道試験(じっしょう実験)が行われていることを知っているだろうか。じゅつ向上と周辺かんきょうせいに必要なデータ収集しゅうしゅう、社会に対する周知などを目的に、かんこうちょう、自治体、大学・研究機関、自動車メーカー、アプリケーション(アプリ)やサービスの開発を行うぎょうなどが協力しあい、全国各地で公道試験が進められているのだ。

自動運転のひとつの形『Easyイージー Rideライド

『Easy Ride』は、自動車メーカーである日産自動車が開発した自動運転じゅつと、ソーシャルゲームなどで知られるアプリ開発会社のDeNAディーエヌエーが手がけた新しい交通サービスを融合ゆうごうさせた自動運転システムで、2018年3月に神奈川かながわ横浜よこはま市で公道試験が行われた。自動運転じゅつ搭載とうさいした実験車両で走行するだけではなく、どう自体を楽しむけが多数まれている。

神奈川県横浜市のみなとみらい地区で行われた『Easy Ride』の実証実験。日産グローバル本社から横浜ワールドポーターズまでの約4.5kmを自動運転(運転席に人が座ったテスト車両)で往復した。実験に参加した300組の一般ユーザーは、アプリで目的地を設定し、自動運転車で移動。アプリでのドアロック解除や車載アプリによるクーポン券発行なども体験した。
がわ横浜よこはま市のみなとみらい地区で行われた『Easy Ride』の実証じっしょう実験。日産グローバル本社から横浜よこはまワールドポーターズまでの約4.5kmを自動運転(運転席に人がすわったテスト車両)で往復おうふくした。実験に参加した300組の一般いっぱんユーザーは、アプリで目的地を設定せっていし、自動運転車でどう。アプリでのドアロック 解除かいじょ車載しゃさいアプリによるクーポンけん発行なども体験した。

「安全」を最ゆうせんに無人走行車両を開発

Easyイージー Rideライド』の公道実験では、カメラやレーザースキャナなどの先進技術ぎ じゅつ搭載とうさいした電気自動車が使われた一方、管制かんせいルームから人の目で運行状況じょうきょうを見守るなど、技術ぎ じゅつと人間の力を結集し、安全走行につなげた。

複数ふくすうの「目」で状況じょうきょうあく

『Easy Ride』は、専用せんようのモバイルアプリを使って、いつでもどこでも無人運転車両をすことができ、安全に目的地まで移動い どうできるという新しい交通サービスを目指している。「こんなところに行きたい」とリクエストすれば、オススメポイントを紹介しょう かいしてくれるなど、サービス面での充実じゅう じつ特徴とく ちょうだ。

しかし、無人運転車両を実現じつげんさせるには、高い安全せいがなによりも重要だ。横浜よこはまで行われた公道試験で使われたテスト車両は、日産車の電気自動車「リーフ」をベースにした自動運転車で、13のカメラと前後各3のレーザースキャナが搭載とうさいされた。これらは人間の視覚し かくに代わるもので、カメラは車両の周辺情報じょう ほう画像が ぞうとしてとらえる。一方、レーザースキャナはレーザーで周囲の物体までの距離きょ り把握は あくすることができる。このように、カメラとレーザースキャナは、たがいに機能き のう補完ほ かんし合っているのだ。

日産自動車で『Easy Ride』の開発にたずさわっている藤田ふじ た和正かずまささんは「3月の実証じっ しょう実験では一般いっぱんのお客さまに乗っていただくので、試作車ではありますが、市販し はん車を上回るレベルの自動運転性能せいのうを目指しました」と言う。

13のカメラと前後各3(計6)のレーザースキャナを搭載とうさいしたテスト車両

全体をかんする「人の目」も活用

カメラとレーザースキャナに加えて、公道試験では人による管制かんせいシステムも導入した。テスト車両にはリーフの通信モジュールを応用おうようした通信技術ぎ じゅつが採用され、将来しょう らい的には日産とNASAの共同開発による管制かんせいシステム「シームレス・オートノーマス・モビリティ(SAMサム)」の採用さい ようも計画されている。

SAMは、クルマの人工じんこう知能ち のうAIエーアイ)を補完ほ かんし、自動運転車両の安全かつ円滑えんかつな走行を可能か のうにするシステムだ。万が一自動運転車両が事故じこ・路上の障害しょう がいなど不測ふ そく事態じ たいに直面して、AIだけで正確せいかく判断はんだんすることが困難こんなんな場合は指令センターに通報つうほうし、車両の状況じょうきょうをセンサーから把握しているモビリティ・マネージャーが、一帯を俯瞰ふ かんしたうえで個々ここの車両に適切てきせつな行動を提案ていあんしたり、遠隔えんかく操作そう さにより安全なルートに誘導ゆうどうする。また、その情報じょう ほうはクラウド上のAIエーアイを通じて周辺の車両にも共有され、人間のサポートなしに最適さいてきなルートを選択せんたくするようになるなど、社会全体の交通の効率こうりつ化につながることも期待される。

運行状況を見守る管制センター
運行状況じょうきょうを見守る管制かんせいセンター
テスト車両がどこを走っているかを遠隔地でチェック
テスト車両がどこを走っているかを遠隔えんかく地でチェック
乗車位置から目的地までのルートや予想到着時間も表示
乗車位置から目的地までのルートや予想とうちゃく時間もひょう

公道試験により一歩前進

「日産自動車では、車の“所有”だけでなく、お客さまのカーシェアリングに対する欲求よっ きゅう潜在せんざい的な移動い どうニーズを満たすためのサービス立ち上げに取り組んでおり、中期計画に『無人運転車両による、配車サービス事業への早期参画実現じつげん』をみました。2020年代早期には無人配車サービスを実現じつげんしたいと思っています」(藤田ふじたさん)

今回の公道実験は、『Easy Ride』実用化に向けたスタート地点。主に車両部分を担当たんとうした日産自動車では、公道実験を通じて改めて安全の重要せいを感じたという。

問題は、従来じゅう らい人間が行ってきた判断はんだんや安全確認かくにんをどこまで自動車やアプリにまかせるか。すべてを自動化すればコストが高くなり、実用化が遠のくかもしれない。早期実用化のためには、SAMのように高度な技術ぎ じゅつと人間の判断はん だん力を組み合わせたシステムにより、安全せい担保たん ぽすることも必要だと考えているそうだ。

ネットサービスが加わることで自動運転のりょくばいぞう

自動運転の実用化により期待されるのは、安全で快適かいてき移動い どうだけではない。
EasyイージーRideライド』により移動い どうそのものを楽しむことができたり、独自どく じのサービスを受けられたり、新しい価値かち創造そうぞうも期待されている。

ゲーム開発の強みを生かす

自動運転技術ぎ じゅつならぶ『Easy Ride』のかくは、専用せんようアプリによるサービス体系たいけいにもある。このアプリケーション(アプリ)やサービスを作り出したのは、ソーシャルゲームやアプリの開発で急成長したDeNAだ。

アプリを使えば、ドアロックの解除かいじょや目的地の設定せっていなどの必要な操作そう さに加え、車内では周辺のイベント情報じょう ほうやおすすめスポットの情報じょう ほう、お得なクーポンの発券はっけんなど、移動いどうを楽しくする多様なコンテンツを利用することができる。また、『Easy Ride』の専用せんようアプリは初めてでも使いやすいように操作そう させいが工夫されているほか、利用料金もアプリ上で支払し はらえるようにしていくなど、インターネットサービスで成長をげたDeNAならではのノウハウがまっている。

DeNAで『Easy Ride』を手掛けるよしもりひろさんは「DeNAは、『Easy Ride』のほかにもロボット物流、自動運転バス、スマートタクシー、カーシェアリングなど、インターネットとAIを活用した交通関連プロジェクトに取り組んでいます。それにより移動い どう・買い物弱者とばれる人たちを救うなど、わたしたちの得意とする分野で貢献こうけんしていきたいと考えています」と話す。

ゲーム開発の強みを生かす

運行管理データで需要じゅようそく

自動運転技術ぎ じゅつとDeNAが得意とする技術ぎ じゅつを組み合わせることで生まれるシナジー(相乗効果こうか)は、これにとどまらない。そのひとつとして注目したいのが、『Easy Ride』から得られた利用データの活用だ。

『Easy Ride』では、車両の通信機能き のうを使って位置情報じょう ほう稼働か どう状況じょうきょうを、運行管制かんせいシステムで管理する。このシステムにアプリの情報じょう ほうを組み合わせると、個々ここの車両がいつ、どこからどこへ、どのくらいの速度で移動い どうしているかが一目でわかるという。

そうして得られた「ビッグデータ」とばれる膨大ぼうだいな利用データを、DeNAのAIエーアイ技術ぎ じゅつを用いて解析かいせきすることによって、時間帯や天候といった“状況じょうきょう”や、あるいは目的地などの“利用者のニーズ”ごとに、傾向けいこうが分かるのではないかと考えられている。

ビッグデータから得られた傾向けいこう有効ゆうこうに活用できれば、『Easy Ride』で省エネや渋滞じゅう たい緩和かん わといった社会課題を解決かいけつするための効果こう かを得られるだけではなく、新たな機能を生み出すための貴重き ちょう情報じょう ほうげんにもなると期待されている。

どう中も周辺かんきょうも楽しめるアプリ

DeNAは『Easy Ride』を通して、地域ち いき経済けいざい活性かっせい化したいと考えている。

たとえば、和食店に行きたいとき、『Easy Ride』は位置情報じょう ほうから複数ふくすうのお店を提案ていあんし、行き先が決まったらクーポンの発券はっけんと同時にお店へ予約メールを発信。車両は利用者をお店におくとどけると、少しはなれた駐車ちゅう しゃじょうで待機し、食事が終わるころにむかえに来る。食事代や『Easy Ride』利用料金はもちろんアプリではらう。こんな仕組みが実現じつげんすれば、利用者にとって便利なだけでなく、お店にとっても集客や宣伝せんでんなどのメリットが生まれる。

今回の公道試験でも、このようなサービスの有効ゆうこうせいが感じられた。DeNAの町川まちかわ高明たかあきさんは「利用者から『未来を確信かくしんした』などのポジティブな感想を多数いただきました。みなさまのご意見はアンケート結果とあわせて検討けんとうし、今後に生かしたい」と抱負ほう ふを語った。

安全であることはもちろん、移動い どう時間も楽しく、周辺の魅力み りょくも伝えてくれる。自動運転が作るそんな社会が、実現じつ げんに向けて一歩ずつ近づいている。

ゲ移動中も周辺環境も楽しめるアプリす

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