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2018 春号 (4-6月)

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[発見!くらしの中の科学]

モノが届くしくみ
−今と昔ではどのように違うの?−

モノが届くしくみ −今と昔ではどのように違うの?−

通販ですっかりおなじみになった宅配便は、物流が発展する中で登場してきたサービスです。モノが届くしくみは、今と昔とでは違っているのでしょうか? 物流博物館の玉井幹司さんに教えてもらいました。


Q.宅配便はいつからあったの?
A.日本では1970年代後半から始まりました。

現在のヤマト運輸が1976年に始めた「宅急便」が、宅配便のビジネスモデルの出発点です。その後は各社がこの分野に参入し、現在ではヤマト運輸、佐川急便、日本郵便がビッグスリーといわれています。

歴史を振り返ると、戦前にも宅配便とよく似た「宅扱(たくあつかい)」というサービスが、当時の鉄道省の提供で全国的に実施されたことがありました。葉書や電話などの申し込みで集荷に来てくれ、スピード輸送が特長で、通信販売に利用されるなど好評でしたが、戦争による輸送体制の変化とともに1942年には姿を消してしまいました。

戦後も宅配便に類似したサービスが試みられましたが、時代のニーズが成熟しておらず短期間で終わっています。そのため、人々が小荷物を送る際には、明治時代から続く集荷のない郵便小包や鉄道小荷物を利用するほかありませんでした。

「宅扱」の集配車(1935年頃の写真) 長距離輸送は鉄道で行い、駅から先の集配は現在の日本通運の前身企業が請負った。ただし、集配範囲は駅から約6km以内に限られていた。(写真/物流博物館)
「宅扱」の集配車(1935年頃の写真)
長距離輸送は鉄道で行い、駅から先の集配は現在の日本通運の前身企業が請負った。ただし、集配範囲は駅から約6km以内に限られていた。
(写真/物流博物館)
鉄道小荷物の仕分け作業(1970年12月撮影)手前の人物が手作業で行き先別のコンベアに荷物を仕分けている。隅田川駅(貨物駅)での年末のピーク時のようす。(写真/物流博物館)
鉄道小荷物の仕分け作業(1970年12月撮影)
手前の人物が手作業で行き先別のコンベアに荷物を仕分けている。隅田川駅(貨物駅)での年末のピーク時のようす。(写真/物流博物館)

Q.なぜ宅配便は広まったの?
A.産業技術の発展が大きく貢献しました。

一時期を除き、宅配便は右肩上がりの成長を遂げてきました。高度経済成長を経て、豊かになった社会を背景に消費社会が出現しました。人々の価値観の多様化による個人の輸送ニーズの増加が、宅配便の成長の主な要因だと思われます。宅配便は産直便やネット通販など新たな市場を開拓しました。代引やクール便、時間帯指定などのサービス向上が、これらの拡大に拍車をかけました。

こうした宅配便の成長は、インフラの整備や産業技術の発展を抜きには考えられません。トラックによるスピード輸送は、国内の道路整備が進むにつれて可能になりました。陸上輸送が鉄道中心からトラック中心へと転換したのは1966年、名神高速道路(日本初の長距離高速道路)が全通した翌年のことでした。

また、物流情報システムの発展により、1980年には宅配便に貨物追跡システムが導入されました。自動仕分け機も進歩し、1時間に最大約4万8千個の荷物を、行き先別に仕分けることができる物流ターミナル(東京・羽田)も建設されています。

宅配便の成立や発展の前提条件となったのは、1950年代半ば以降、急速に進展した物流の変革でした。高度経済成長に伴う輸送量の増大を背景に、流通のモノが動く部分を「物的流通=物流」として捉え、マネジメントする考え方が導入され、「物流」という概念が登場しました。

作業現場でも、主に人力に頼っていた積み卸しや倉庫内の作業は、パレット、フォークリフトなどの普及やコンテナの導入により、機械化・合理化が進みました。労働者の安全・衛生にも人間工学的な配慮が払われるようになり、同時に荷物の包装も規格化・軽量化が進みました。それまでの木箱やわら包装に代わって、段ボール箱が主流となり、石油素材のこんぽうざいも用いられるようになりました。いずれも、機械工業や石油化学工業の発展が背景にありました。

宅配便などの輸送量の変化(国土交通省調べ)
宅配便などの輸送量の変化(国土交通省調べ)
トラックから貨車へ米俵を積み込むようす
トラックから貨車へ米俵を積み込むようす
1960年代の米俵のやく。荷役とは荷物の積み卸しや倉庫への出し入れのこと。米俵は1俵65㎏近い重さ。成人体重の40%を超える荷物は過重な荷物といわれる。
(写真/物流博物館)
初期のフォークリフトによるパレット作業
初期のフォークリフトによるパレット作業
1950年頃の袋物(セメント)の荷役作業のようす。荷物をパレットなどにまとめて乗せて、機械や重力の作用で荷役する「ユニット・ロード」の考え方が普及した。
(写真/物流博物館)

Q.物流はもっと便利になるの?
A.私たちが望む社会のあり方に対応して変化していくでしょう。

これまで物流は「より早く・安く・安全に・正確に」モノを届けることを至上命令としてきました。しかし、少子高齢化が進む中、物流業界では人手不足が最も大きな問題となっています。そのため、現在の価値観に基づく利便性の水準を維持しにくくなってきているのも事実です。

AI、IoT、ロボット工学などの科学技術の発展が、この問題を解決する鍵になるのでは、と期待されています。例えば、アマゾンが近年導入した「アマゾンロボティクス」では、人が倉庫内を歩いて商品を取りに行く必要がありません。過去の変革をりょうする大きな変革の波が物流業界に押し寄せつつあります。

同時に、私たちの持つ価値観も、働き方を含めてより成熟した社会を築く中で見直していく必要があるかもしれません。物流は人々の消費行動が原動力となって動いています。地球環境や国際的な競争、経済格差、資源の問題など大きな社会問題とも関わりながら、私たちがどんな社会を望ましいと考えるかによって、物流の「利便性」のあり方も変化していくのではないでしょうか。

巨大な自動仕分け機
巨大な自動仕分け機
巨大な自動仕分け機
ヤマト運輸のクロノゲート(東京・羽田の物流ターミナル)の自動仕分け機。下の写真は荷物に貼られた行き先を示すバーコードを識別するスキャナ。
(写真/ヤマト運輸)
アマゾンのロボットによる管理システム
アマゾンのロボットによる管理システム
オレンジ色の小型搬送ロボットが商品棚を下から持ち上げピッキング作業者がいる所に棚ごと運び、終われば元に戻す。
(写真/アマゾンジャパン合同会社)

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