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2018 春号 (4-6月)

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[自然の豊かさって何だろう?]

コウノトリが舞う里のエコバレー構想
~人と自然が共生するまちづくり

兵庫県豊岡市

コウノトリが舞う里のエコバレー構想 ~人と自然が共生するまちづくり 兵庫県豊岡市

兵庫県豊岡市を南北に流れ、日本海に注ぐまるやまがわ
その下流域と周辺の水田は、国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録されている。
かつてはその豊かな自然一帯にコウノトリが生息していたが、戦後、生息環境の悪化で急激に数を減らし、1971年に野生のコウノトリは姿を消した。
半世紀以上にわたりコウノトリの野生復帰に取り組んだ豊岡市は、その活動を通して、人と自然が共生できる
まったく新たなまちづくりを提唱している。


兵庫県豊岡市

努力が実ったコウノトリの野生復帰

1965年、減り続けるコウノトリを保護して人工飼育に踏み切るため、わずかに残る野生のコウノトリを捕獲した。「いつか増やして、きっと空に帰そう!」。多くの市民の願いを受け、長年にわたる人工飼育の地道な取り組みが成功し、初めて試験放鳥を行ったのは2005年だった。その2年後の5月には43年ぶりに野外でヒナが誕生し、7月末日、無事に巣立った。その後も放鳥した鳥たちが順調に繁殖し、今では100羽を超えるコウノトリが日本の大空を舞っている。

2005年9月24日、人工飼育の5羽を初めて試験放鳥。秋篠宮ご夫妻、河合隼雄文化庁長官らも出席して祝った。
2005年9月24日、人工飼育の5羽を初めて試験放鳥。
秋篠宮ご夫妻、河合隼雄文化庁長官らも出席して祝った。

コウノトリもめる環境へ

コウノトリはくちばしから尾まで約110cm、両翼を広げると約2mにもなる。このような大型の鳥が野外で生息していくためには、餌となる生きものが豊富でなければならない。豊岡市は行政と市民とが一体となり、「コウノトリも棲める環境づくり」に取り組んだ。

主な取り組みの一つが2003年から始めた「コウノトリ育む農法」。その最大の特徴は水管理で、冬期の田んぼにも水を張る(*冬期たんすい)ことだった。ほぼ1年を通して田んぼに水があるため、コウノトリの餌となる多くの生きものが育まれる。これまでとまったく違う様子に、「田んぼが自然界の法則にしたがって動いているようだ」とある農家は驚いた。

農薬を使用しないため、穫れる米は安全、安心だ。消費者はこの米を購入することで生産者を支援できる。わずか0.7ヘクタールから始まった取り組みは、2017年には約401ヘクタールに広がった。

*「ふゆみず田んぼ」とも言われる。

学校や市民も一体となって

生きものが豊かになった田んぼや水場を利用して、市内の小学校では農家などの協力のもと、環境体験授業を実施している。カエルにドジョウにゲンゴロウ……網ですくうだけで、たくさんの命に出会える。

一方、市民からもコウノトリとの共生をシンボルに、自分たちができる活動をしようという動きが起こった。NPO法人コウノトリ市民研究所やNPOコウノトリ湿地ネットのほか、全国展開するコウノトリファンクラブや日本コウノトリの会などもあり、調査や情報発信など活発に活動し、環境づくりに貢献している。

多くの市民が調査に参加するコウノトリ市民研究所主催の「田んぼの学校」。
多くの市民が調査に参加するコウノトリ市民研究所主催の「田んぼの学校」。
コウノトリ育む農法圃場で生きもの調査をする小学生。
コウノトリ育む農法じょうで生きもの調査をする小学生。
豊岡市の北部、円山川河口近くの「(市立)ハチゴロウの戸島湿地」。ラムサール条約に登録され、周辺は山に挟まれた低湿な田んぼや畑、集落で、氾濫原の名残を今に残す。山際にある人工巣塔では、2008年から毎年コウノトリのヒナが巣立っている。
豊岡市の北部、円山川河口近くの「(市立)ハチゴロウの戸島湿地」。ラムサール条約に登録され、周辺は山に挟まれた低湿な田んぼや畑、集落で、氾濫原の名残を今に残す。山際にある人工巣塔では、2008年から毎年コウノトリのヒナが巣立っている。
多くの生きものが育まれる「田んぼの食物網」の図             鷲谷いづみ著『大学1年生の  なっとく!生態学』(講談社刊)より改変              イラスト:中央大学保全生態学研究室 工藤遥香
多くの生きものが育まれる「田んぼの食物網」の図
鷲谷いづみ著『大学1年生の なっとく!生態学』(講談社刊)より改変
イラスト:中央大学保全生態学研究室 工藤遥香

注目される経済効果

コウノトリも棲める環境は人間にとっても豊かで、魅力あふれるものである。豊岡市は活動のなかで、この環境が現代人を引きつけ、経済効果を生むことに気づいた。「環境への取り組みによって経済効果が生まれ、経済効果が生まれることによって環境への取り組みがさらに活発になるという相乗効果があります」と同市コウノトリ共生課の大逸優人さん。

2009年に策定された「豊岡市経済成長戦略」では、環境創造型農業や環境ビジネスを積極的に展開させると共に、エコハウスの普及、地産地消の仕組みづくり、エコツーリズムやバイオマス活用の推進などにより、環境配慮型地域社会である「豊岡エコバレー」の創造を宣言している。

世界が目指す「生物多様性と経済の好循環構築」。その先駆けプロジェクトとして注目される。

丹精込めて作られる「コウノトリ育むお米」。
丹精込めて作られる「コウノトリ育むお米」。
安全性とおいしさに消費者による支援の輪が広がる。
http://www.city.toyooka.lg.jp/hp/genre/agriculture/farming/rice.html

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