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2015年 冬号 (1-3月)

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[発見!暮らしのなかの科学]

あかりの歴史とLEDが照らす未来

あかりの歴史とLEDが照らす未来

2014年のノーベル物理学賞で話題になった「青色LED(発光ダイオード)」は、今ではくらしの中で使われています。私たちは、この光にたどり着くまでに、どんなあかりを手にしてきたのでしょう? そもそもあかりとは何でしょう? 国立科学博物館理工学研究部科学技術史グループ長の前島正裕さんに聞きました。


太陽からの可視光とあかり

太陽から注がれる光のうち、人の目に見える光(可視光)は、私たちを取り巻く光のうちのほんの一部ですが(左図)、日々のくらしにたくさんの恩恵をもたらしてきました。

「モノを見ると、青や緑のように〝モノの色〟が見えますね。色を捉える人間の視覚能力は、赤や黄色の果実を見つけたり、遠くの敵を警戒するなど、生存に有利に働いてきました。そんな〝モノの色〟は、〝光の色〟であることをご存知ですか?」。教えてくれるのは、あかりの技術の歴史を研究している前島さん。「光がモノに当たると、可視光の一部がモノに吸収されて、残った光だけがはね返ります。それが、私たちが見ている〝モノの色〟なのです」

確かに、陽が沈んで光を失うと、モノの色は見えなくなってしまいます。そして、そんな暗闇の中で役に立つのが〝あかり〟です。あかりは、昼の太陽光に適応した視覚で、夜、モノを見るための道具として作られました。「ですから、光と、光が当たるモノ、人間の視覚の3要素がそろって初めてあかりが成り立つのです」

自然界にある光の中で、人間の目に見えるのは、波長が380~770nm の光。
自然界にある光の中で、人間の目に見えるのは、波長が380~770nm の光。

移りゆくあかりの道具

人間が最初に手にしたのは、動物や植物の油を燃やして出る炎でした。前島さんによると、すでに平安時代には、 犬榧いぬがや 犬山椒いぬざんしょうなどの実や、エゴマの油を用いた灯火具が使われていましたが、宗教儀式やまつりごと用の特別な道具でした。庶民がくらしの中で灯火具を使い始めたのは江戸時代のこと。燃料は、初め安いイワシの油などもありましたが、やがて菜種油の絞り機が改良されて量産されるようになると、「ちょっと良い日本酒ぐらい」の値段で買えるようになり、上質のあかりに手が届くようになりました。

「菜種油のあかりは、小さいけれど、風がなければ豆電球のように安定してきれいなんですよ」。前島さんは、博物館収蔵の行灯に視線を注ぎます。「あかりが庶民に広まると、夜なべ仕事がなされる一方で、観劇など、江戸の文化がはぐくまれました」。一方、この時代には、ハゼやウルシの実を絞ったろうそくも作られました。ろうそくは炎が大きく明るいのが特徴でしたが、高価ゆえ、特別な宴会や儀式での使用にとどまりました。

時代が明治に入ると、電力を使うあかりが登場し、炭素棒に放電して発光させるアーク灯が街路を照らすようになりました。やがて大正時代の終わりになると、白熱電球が普及しました。さらに、昭和の戦後には、高い効率で光を発する蛍光灯が浸透し、20世紀が終わりに近づいた1996年、LEDの白いあかりが誕生したのです(右図)。

あかりの道具の変遷

あかりの道具の変遷

あかりの発光の仕組み

長い歴史の中で多様に進化したあかりですが、光を発する原理は同じなのでしょうか。前島さんは、「光は全て電磁波です」と説明を始めます。電磁波とは、電気と磁気が一緒になって空間を伝わる現象(波)です。電波もX線も電磁波ですが、波の波長が異なり、私達の目は380~770nmの電磁波を見ることができるので、その帯域の電磁波を可視光と呼んでいます(初めの図)。

「電子が刺激されてスピードが急に変わると、電磁波を発生します。どのあかりも、この性質を使って光を出しています」

白熱電球は、フィラメントに電気を流してフィラメントの電子を加速させ、2000度ぐらいに加熱して光を出します。温度を上げて光を出す仕組みは、炎の光であるろうそくや行灯と同じです。「モノは全て温度に見合った光を出していて、高温になると目に見える光の領域になり、赤からオレンジ、黄色、緑、青へと変化して、6000度に達すると太陽光のような白色になるんです」

しかし、高温にして光を出す方法は、注いだエネルギーの多くが熱になって逃げるので、光の効率は良くありません。そこで考えられたのが、蛍光灯やLEDの仕組みです。蛍光灯は、電子を水銀原子に当て、紫外線を生み、蛍光物質にぶつけて光らせます。LEDは、半導体を使い、マイナスを帯びた電子とプラスを帯びた正孔を引き合わせて発光させます。光の効率は格段にアップしました。

江戸時代の「有明行灯」。
江戸時代の「有明行灯」。イグサの「灯心」と菜種油を注ぐ鉄の皿が添えられている。国立科学博物館収蔵

あかりの発光の仕組み

白熱電球 フィラメントを加熱し電子を加速させ、光を発する。 蛍光灯 左右のフィラメントから放出された電子が水銀原子と衝突し紫外線を発生。紫外線が蛍光物質に照射され光を発する。 LED マイナスの電気を帯びた「n 型」の結晶の電子と、プラスの電気を帯びた「p 型」の結晶の正孔がくっつくと発光する。

LEDで調光する時代へ

前島さんは、太陽と蛍光灯が放つ可視光の成分(スペクトル)の違いを見せてくれました。

「太陽の光には、ほとんどの波長の光がまんべんなく含まれますが、蛍光灯の光のスペクトルは、ギザギザとしています。私たちが見ている〝モノの色〟は、光源からの光がモノに当たって反射した〝光の色〟ですから、光源がどんな光のスペクトルを含んでいるかで、モノの色が違って見えます。例えば、江戸時代に使われた油の光は赤色の成分が多いので、女性の頬に赤みが差して美しく見えたそうですよ」。快適なくらしのためには、場面に応じてあかりを選ぶ必要がありそうです。

ノーベル物理学賞に輝いた青色LEDの発明によって、光の三原色がそろい、自由に色を出せるようになったことや、黄色の蛍光体と合わせて簡単に白色を出せるようになり、くらしに役立つ白いあかりが実現しました。今では昼白色や電球色などの調光も可能になっています。

「LEDは、効率が良いだけでなく、光源が小さい、デジタル制御ができるなどの特性があります。そのため、照明を線や面などの自由な形にデザインしたり、光の色味や強さを調節したり、さらにはあかりと一緒に情報を送ることさえも可能です。江戸のあかりが日本の文化を生んだように、今後はLEDのあかりが、まだ想像もできない新たな文化を生んでいくと思いますよ」

光のスペクトルの違い
光のスペクトルの違い。照明器具はパナソニック株式会社、太陽光はNASAの資料をもとに作成。

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