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2014年 夏号 (7-9月)

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[発見!暮らしのなかの科学]

冷やりを長持ち保冷剤のジェル

冷やりを長持ち保冷剤のジェル

日本の暑い夏に、無くてはならない存在になった保冷剤。でも、その中身は何なのか、疑問を持ったまま使い続けている人も多いのでは?今回は、そんな保冷剤のひみつをさぐってみましょう。


身近になった保冷剤

スポーツの後の休憩時間や、寝苦しい夜などに役立つ保冷剤は、気持ちをリラックスさせてくれます。しかし、使いながらふと、「そもそも保冷剤はなぜ冷たいの? 中に入っているものは何?」など、いろいろな「?」が浮かんだことはないでしょうか?

私たちが使う保冷剤の多くは、ジェル状のものです。このタイプが登場したのは1980年代のこと。それ以前は、体の熱を取るのには氷が使われ、ケーキなどを持ち歩くときにはドライアイスが使われていました。

しかし氷は硬く、氷嚢と呼ばれるゴム製の袋に入れたとしてもごつごつとして、携帯にも不便。また、二酸化炭素を高濃度で固めたドライアイスは、誤って手で触れると凍傷を起こすなど、危険がつきまといます。それに比べてジェル状の保冷剤は、手軽で携帯もでき、触り心地も優しいため、1990年代以降、急速に普及しました。

凍っても柔らかいジェル

では、保冷剤の中に入っているこのジェルは、どんな物質なのでしょう?

法政大学経済学部化学研究室の山﨑友紀教授に尋ねると、「成分の約98%が水。残りが高吸水性ポリマーで、具体的にはポリアクリル酸ナトリウムです。ほとんどが水なので、安全性の高い素材です。紙おむつなどの衛生用品に入っているものと同じですから、紙おむつの中身の粉を出して水を含ませ凍らせると、保冷剤を作ることができるんですよ」。たった数パーセントの高吸水性ポリマーが、氷とは違うあの感触を作り出します。

「氷は、水分子が規則正しく並ぶ結晶構造ですが、高吸水性ポリマーは、高分子樹脂の繊維の網目の中に水分子を含んでいます。そのため、水が凍っても氷のような結晶構造が作れず、柔らかい触り心地が保たれるのです」

ではなぜこのポリマーは、大量の水を吸収できるのでしょうか?

「吸水性ポリマーのカルボン酸ナトリウムは、水を吸わせると電離して2種類のイオンになります。そのイオンの周りに水分子がたくさん引き付けられ、ゲル状にふくらむのです。高分子ポリマーが、このようにいったん網目の中に水分子を取り込むと、簡単には放すことができません」

そのため乾燥せずにジェルの状態が保たれます。また、冷却効果を高めるのにも、この柔らかさが効いているそうです。

「体の形に沿わせて面として接触できますから、体の熱を奪う熱伝導がスピーディに行える利点があるのです」

高吸水性ポリマーの吸水前後の変化

高吸水性ポリマーの吸水前後の変化
上段/ごく少量の高吸水性ポリマーの粉末に水を注ぐと、たちまち吸水してジェル状になり固まる。その吸水率は高いもので1000倍。中段/ポリマー粒子を400倍にアップした顕微鏡写真。下段/分子の変化。高分子樹脂の繊維の網目が水をとらえると、繊維構造全体が膨らむ。

ジェルはなぜ冷たさを保つのか

保冷剤の冷却の仕組みを、もっとさぐってみましょう。

「保冷剤の保冷時間は、氷に比べて20%ほど長くなります」とは、保冷剤を製造する静岡県の会社、トライカンパニーで開発を行う水田裕文さん。「理由の一つは、水と違ってジェルには流動性がなく、対流が起こらないためです」と言います。液体の水は、水分子が自由に動くので、温まった部分と冷たい部分の温度差が対流を引き起こし、全体が温まってしまいます。しかしジェルは、流動性が低いため、全体が温まりにくいのです。

ところで、左上のグラフでは、セ氏0度の状態で温度の上昇が横ばいになっていることが見てとれます。

「温度は一定の角度で上がるとイメージする方も多いようですが、実際は氷が水に変化する融点の状態で、氷と水が共存し、温度が横ばいになります。われわれが注目するのがこの横ばいの部分です」

固体が液体になるときに、分子同士が引き合う力を切り離すのに必要な熱を吸収し、温度の上昇が横ばいになります。保冷剤の開発では、主成分を変えたり薬品を加えたりして、この状態をできるだけ長くキープすることを、常に目指しているそうです。

対象に合わせて温度を調整する

最近、いろいろな温度の保冷剤が作られています。例えばセ氏6度をキープする保冷剤があります。

「6度は冷蔵庫の温度です。東日本大震災で計画停電が施行され、冷蔵庫が使えなくなった経験がきっかけで、開発が大きく進みました」と水田さん。6度の融点を出すために、水に代わる材料としてポリエチレングリコールの混合物が使われるそうです。

現在では多くの工夫により、マイナス25度からプラス25度までの温度を設定しています。

「0度以下の融点は、水に薬品を混ぜて作り出します」。薬品は各社の企業秘密とのこと。「また、0度以上の保冷剤には、水ではなくパラフィンを主成分にすることもあります。流動性を妨ぐための繊維質の素材を混ぜて使います」

0度以上の保冷剤の用途を聞くと、なんと、血液の輸送や再生医療分野など、生命科学の進歩に合わせて需要が高まっているそうです。

保冷の効果を高める工夫

より効果的に保冷するための注意点とは何でしょう。

まず、使用前によく冷やすこと。一般的な保冷剤は、冷凍庫(マイナス20度ぐらい)で8時間以上しっかりと冷やします。また、使用の際は、冷やす物全体を包む、もしくは物の上下を挟むようにするのが理想的。保冷剤の数が限られる場合は、冷気は上から下に降りるので、物の上部にかぶせます。さらに、断熱を併せて考えることが重要です。

「保冷と断熱はいわば相棒です。ビア樽を包む保冷シートなどは、冷却層と断熱層の二重構造をしています。また、保冷物流では、真空断熱パネルなどの優れた断熱材が保冷庫用に開発され、効果を上げています。真空断熱材はまだ損傷に弱いのですが、今後改良されれば、用途が大きく広がるでしょう」

保冷剤と断熱剤がセットで進歩すれば、電気に頼らないくらしが進んでいくかもしれません。

さまざまな保冷剤

さまざまな保冷剤
くらしの中で活躍する保冷剤は多種多様。左下の解熱に使われるシートは、水が体熱を奪って気体になる水の状態変化を利用している。揮発性を促進するメントールを加え、冷感をプラスするなどの工夫も。また、左上の叩くと冷える保冷剤は、硝酸アンモニウムと尿素の混合素材が、叩かれた瞬間水と混ざり、水に溶けるときの水和による熱吸収を利用して冷やす。

水とジェルの温まり方

水とジェルの温まり方
ジェルは水と違い、対流が起こらないため、温まりにくい。

水と保冷剤の温度変化

水と保冷剤の温度変化
水の方が温まりやすい。0℃付近の横ばいの部分は、個体が液体に変わる融解潜熱の状態。(P.20参照
提供:株式会社トライカンパニー

保冷対象とその適温

保冷対象とその適温
資料提供:株式会社トライカンパニー

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