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2011年 冬号 (12-1月)

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[発見!暮らしのなかの科学]

金属よりも強い糸 いま話題の炭素繊維って?

[発見!暮らしのなかの科学]イメージ

近年、産業界で注目されている「炭素繊維」。
その開発技術は、日本が世界をリードしてきました。
優れた特性を持つため、さまざまな分野で需要が拡大しています。


髪の毛よりも細い

2011年11月から運航が始まった最新鋭の中型ジェット旅客機「ボーイング787」。翼や胴体の約半分に炭素繊維と樹脂の複合材料が使われたことで、テレビのニュースなどで話題になりました。

 

炭素繊維は、直径が髪の毛の10分の1程度のとても細い繊維です。そんな細い繊維が、ジェット機の機体に使われているなんて、ちょっと心配になってしまいますね。でも、加工することで、この細い繊維が機体を支える頑丈な材料になるのです。

 

ここで少し前置きをしておくと、炭素繊維は、原料によってPANパン系とPITCHピッチの2種類に分かれます。PAN系は毛布やセーターなどに使われる、化学的に作った糸「アクリル繊維」が原料です。頑丈で変形しにくいことから、航空機や宇宙船の機体、テニスラケットなどに使われています。一方のPITCH系は石油や石炭が原料。熱や電気を伝えやすい性質があるため、リチウム電池や燃料電池の電極などに使われています。ここでは、現在、市場で約9割を占めるPAN系炭素繊維についてお話しします。

*PAN:アクリル繊維の原料となるポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile)のこと
PITCH:石油の精製時に残る副生成物

強くて軽い理由

炭素繊維とは、名前のとおり「炭素でできた繊維」です。炭素を化学的に組み合わせて作るようなイメージを持つかもしれませんが、実際は木炭を作るように製造していきます。原料はアクリル繊維。炭素のほかに窒素や水素も含まれていますが、燃えないように、酸素のないところでじわじわと焼いていくと、窒素や水素が離れて炭素だけが残るのです。それと同時に、炭素同士が結びついて、六角形が敷き詰められた結晶構造になります。

 

この六角形構造に、炭素繊維の強さと軽さの理由があるのです。六角形が隙間なく並んだ構造は「ハニカム構造」と呼ばれ、とても安定で頑丈なのが特徴。ハチの巣やカメの甲羅も、この構造をしていますよね。また、炭素繊維は、鉛筆の芯に使われる黒鉛と同じ結晶構造。金属よりも軽くて丈夫になるというわけです。

 

こうしてできた糸状の炭素は、とてもしなやか。これを束にすると、手でどんなに引っ張っても切れないくらい強度が増します。そして、炭素繊維の束をシート状に広げ、樹脂を浸み込ませて固めます。これを何枚も重ねて必要な形にして窯で焼くと、カチカチの硬い部品になります。これが実際に航空機の機体などに使われるときの炭素繊維の姿です。

 

昔から、粘土にわらを混ぜたり、樹脂にガラス繊維を混ぜたりして、材料の強度を高める工夫がなされてきました。炭素繊維もそれと同じで、樹脂の中の炭素繊維が互いに引っ張り合うことで、より頑丈な材料になるのです。塊になった炭素繊維は「鉄より硬く、アルミニウムより軽い」という特性を持ち、その上、びず、耐熱性やX線透過性にも優れています。また、シートを重ねる向きによって、強さの方向性も制御できます。例えば、航空機の翼は強い風を受けるので、ねじれてしまってはいけません。そこで、シートの向きを調節して、ねじれの向きを考慮して強度を高めるのです。

環境保全にも貢献

炭素繊維は、1970年代からすでに釣り竿やゴルフシャフト、テニスラケットなどのスポーツ用品に使われてきました。その後、航空機の機体をはじめ、自動車や人工衛星の部品、パソコンのボディ、風力発電の風車の羽根、また、X線を透過することから医療用のX線診断装置などにも使われ始めています。高い安全性が求められるジェット旅客機に多く取り入れられたことで、工業用途はますます広がっていくでしょう。

 

“エコ”に対する人々の意識が高まっている昨今、特に期待されているのは自動車産業です。航空機もそうですが、機体や車体に炭素繊維を使うと、重量が軽くなります。そうすると燃費が抑えられ、二酸化炭素の排出量を減らすことができるのです。現在は、製造コストが高いため、F1カーや数千万円クラスの高級車などに使用が限定されています。これからは炭素繊維の量産体制を確立し、コストを下げることが最大の課題だとのことです。

日本のものづくりの力

PAN系炭素繊維は、1959年に通商産業省工業技術院(現産業技術総合研究所)に在籍した進藤昭男博士によって発明されました。その後、日本の繊維メーカーが炭素繊維の研究開発を進め、今では世界中で使われている炭素繊維の約7割を日本の3つの企業が生産しています。

 

広く実用化されるまでには長い時間を要しました。ボーイング787で用いる炭素繊維の生産を担った東レは、40年近く前からボーイング社とともに機体用の炭素繊維の開発に取り組んでいます。東レの松村俊紀さん(広報室広報課長)は「炭素繊維のような性質を持つ材料はほかにないので、将来性があると信じてコツコツ開発をしてきたことが今日につながっています」と振り返ります。「ものづくりに対し、真面目に努力する日本の文化があったからこそ、粘り強く開発を続けてこれたと思います。これからの日本のメーカーは、真似できないものを作ったり、真似されないように技術を高度化していくことが大事です」

 

日本のものづくり文化が世界に誇るものであることを、あらためて実感します。

ボーイング787「ドリームライナー」
ボーイング787「ドリームライナー」
ボーイング787「ドリームライナー」
金属より軽くて丈夫な炭素繊維と樹脂の複合材料を、翼や胴体の約半分に使用。ボーイング社によれば、炭素繊維を使うことで、より大きな機体部位の構造が可能になり、製造時に廃棄物や有害物質を減らせるメリットもあるという。下の写真は、炭素繊維を用いた強化プラスチック(CFRP)を機体後部に機械で巻き付けている様子。
炭素繊維とハニカム構造
炭素繊維とハニカム構造
1本の炭素繊維の中には、六角形に並ぶ炭素が縦にたくさん入っている。この蜂の巣のようなハニカム構造はとても強く、この糸を樹脂に混ぜて重ね合わせていくと、金属よりも軽くて丈夫な材料ができる。
炭素繊維
炭素繊維
炭素繊維は、金属よりも軽くて丈夫なのが特徴。飛行機のほか、自動車のコックピット、パソコンのボディ、ボートのデッキ、橋脚の補強、大きな建物の屋根など、軽くて丈夫な材料が求められるところで利用されつつある。
炭素繊維の作り方
炭素繊維の作り方
炭素をたくさん含む石油からアクリロニトリルという原料を石油化学工場で作る。このアクリロニトリルを数珠つなぎにするとアクリル繊維(ポリアクリロニトリル)に。この繊維を特別な方法で焼くと、炭素だけが残り、六角形が連続するハニカム構造になって、強い糸ができる。左下のオレンジ色の写真は炭素繊維を拡大したもの(黒い線はコンピュータ画像)。

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